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「あの頃、俺はおまえをどうにかしたくておかしくなりそうだったんだ。おまえが傍に来るだけで甘い匂いがして、自分ではどうする事もできないほどの衝動に襲われた。抱きたいって、嫌がるおまえを押し倒して、裸にして、滅茶苦茶に犯したいって……やばいよな、俺。おまえは憶えてるかどうか分からないけど、小六の時にオナニーのやり方教えただろ? あの日のおまえの声とか表情とか仕草を思い出して、自分でやったりしてた。何度も何度もやってるうちに、記憶の中のおまえが汚れて、消えてなくなりそうで怖かった。けど、綺麗だった。記憶の中のおまえはゾッとするほど綺麗だった。薄暗い部屋に月明かりが差して、おまえの目に窓の外の景色が映ってて、吸い込まれそうになるんだ。白い肌や、甘い声や、おまえの泣きそうな顔が俺の欲望を一々引きずり出した。追い込んで、苦しめて、衝き動かして、俺の頭の中をぐちゃぐちゃにした。好きだったんだ。本当に光太郎の事が好きだった」  藍沢はごめんなと首を振った。 「俺の薄汚い欲望を悟られて、避けられたのかと思った。でも、違った。深美と別れ話になった時、あいつが言ったんだ。光太郎くんに告白されたって。どうする? って訊かれた。俺と別れてもいいけど、別れたら光太郎と付き合うって、俺とできなかった代わりに光太郎くんとするかもよって、天使のような顔で微笑みながら、脅すような事をあいつは言ったんだ。おまえが嫌いだって言うのに、おまえと付き合ってもいいって、そんな風に言うんだ……。怖かったよ。俺はおまえを取られたくなかった。勝手な思い込みだけど、おまえと深美がやってるのを想像して息ができなくなった。死ぬんじゃないかと思うくらい苦しくなった。二人が付き合ったら俺はもう何もできない。そう思ったら怖くて……結局、卒業するまで深美と別れられなかった。深美と別れたらおまえは俺から離れるし、深美と一緒にいてもおまえは俺と距離を置くし、どうしたらいいのか分からなかったけどな」  俺は元橋には告白していない。当然、その話は元橋が藍沢についた嘘だった。

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