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自分の恋愛はどうやっても上手くいかなかった。藍沢のフィルターを通してしか、相手を見る事ができなかった。自分が好きなのは藍沢の幻想で、相手の男はそれを映すスクリーンのようなものだった。男が変わっても映し出される映像はいつも同じだった。
藍沢の笑顔と藍沢の体――。
振られるのは当然だった。
――光太郎はずっとそうやって生きていくのか?
ついこの間まで付き合っていた男に溜息混じりに言われた。自分はなんの事か分からないと誤魔化したが、男は許してくれなかった。背中を向けたままYシャツに袖を通した男は、寂しそうに呟いた。
――俺の名前、トモアキじゃないんだけどな……。
残酷な事をしているのは自分でも分かっていた。けれど、止められなかった。心を占領されているのにどうして他の誰かを好きになれるのだろう。方法があるのなら教えて欲しかった。もがいて苦しんで、そうすればするほど身動きが取れなくなった。
「悪かったな」
しばらくすると藍沢は席へ戻ってきた。藍沢はその後、過去の話をしなかった。仕事の話やパリでの出来事を楽しそうに話した。俺はそれを上の空で聞いていた。
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