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第2話

 窓の向こうは灰色一色の世界。雨とは違い、雪が降る音はあまりに小さくて、読書をするのにも邪魔にはならない。  とは言え、それも午前までのことで、午後に入る頃からは風なども出てきて、いよいよ大雪になっていくという気配をさせていた。 「やっぱり、天気予報通り、梅木原君との予定はキャンセルしておいて良かったみたいだね」  雨宮家の屋敷の壁を叩くように吹きつける大きな風の音。雨宮は手にしていた本をパタリと閉じると、雨宮に合わせて、隣で読書をしていた折笠に話しかける。 「あ、集中していたのに、ごめんね」  いつも俊敏に雨宮の言葉に返事を返す折笠は雨宮の言うように珍しく集中していた、もしくは、うわの空だったのだろう。  折笠は「失礼いたしました」と言い、「そうですね」と返した。 「すっかりお茶も冷めてしまいましたね。新しいものを淹れてきましょう。今朝がウバで、先程はダージリンだったので、今度はハーブティーでも」  と、折笠は丁寧に本を閉じると、席を立ち上がろうとする。  暖房は雨宮家の離れを含め、どの建物のどの部屋も完備されていて、一見、クラシックな床にも床暖房が施されている。雨宮と同じで、折笠も今日は屋敷を一歩も出ていないのだが、2時間前に淹れた紅茶が覚めるのは仕方のないことだった。 「ありがとう。でも、今はそんなに咽喉も渇いていないから。ところで、折笠君は何を読んでいたの?」  柔らかなアッシュベージュの髪色をした雨宮が折笠の置いた本を覗き込んでくる。容姿、それに佇まいと精神。どれをとっても、どこかの国の皇子様に見える雨宮に、折笠さえも動揺する。  だが、それをおくびにも出さず、折笠は答えた。 「アガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』を読んでおりました」  アガサ・クリスティーの『オリエント急行の殺人』。 ミステリーの中でもその衝撃的な結末に、女史の代表作にも挙げられている。また、登場人物の1人1人にスポットライトが当たるという面で、80年前に発表された作品だが、様々な俳優や演出家達によってリメイクやアレンジが成され、舞台化、映像化されているという。 「ああ、『オリエント急行』にも大雪で、列車が進まなくなる場面があるよね」 「ええ、もし、あの大雪さえ降っていなければ、かの名探偵と彼らはどういう結末に至っていたのか。そんなことを考えながら、読み耽っておりました」  雪が轟々と降り続く中、実のところ、折笠は途中から雨宮の傍らで本を読む振りをしながら、あることを考えていた。

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