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第8話
雪の降る、ある日の早朝、折笠はあまりの騒がしさに目が覚めた。
白い雪とは対照的に『差押』と記された赤い札。それが折笠の家の丁度品に張り尽くされている。
「これは……」
と、口にするものの、折笠は全てを把握できた。その全てとは雨宮グループ程ではないが、父が実権を握っていた巨大グループ・折笠グループが破産し、路頭に迷うことのみであること。
「何とか、自己破産もして、従業員のことは片がついた」
と折笠の父が誰かと話しているのを聞き、その誰かと二、三言を話すと、家を出ていく。折笠は既にものが運び出されてガランとし始めていた玄関を通り、学校や空手教室へ連れていってくれた運転手に連れられて、雨宮家へとやって来た。
「賢聖様、今日までお世話になりました。公明(きみあき)会長や聡子(そうこ)様、聡明(そうめい)様とお幸せに」
運転手は長年、折笠家に仕えてくれていて、折笠を雨宮家に連れていく、という最後の仕事も引き受けてくれたという。
雨宮家の欧州風の第1邸宅は折笠家の屋敷と比べても、荘厳で、大きさ、美しさも兼ね備えていた。
「ようこそ、雨宮家へ」
折笠は家政婦長である芙美に連れられて、雨宮公明会長や聡子相談役の待つ執務室へ通される。なんでも、公明会長は会長となる前はとある小規模会社に勤める会社員で、聡子相談役は何代も続く名家・雨宮家のご令嬢にして、経営人として経験の乏しい夫を会長までにした手腕の持ち主だという。
「初めまして、公明様。聡子様。折笠賢聖でございます」
折笠は頭を深々と下げると、雨宮夫妻は顔を上げるように言う。すると、道場で姿を見ていた聡明もいた。
「今日から折笠君を家族として迎えることにした、と母から伺っておりました。よろしくお願いいたします」
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