7 / 88

第2話 - 2

大谷さんの話はこうだ; 一年ほど前だったと思います、 ロケハンついでに、スタッフに連れられて、二丁目の、とあるバーに寄ったんです。私はテレビ番組の制作ディレクターをしておりまして。はい。 そこである若者と出会ってしまったんです。 私は今年41歳になりますが、向こうは21歳だという。 最初はそんな気なんて全然なかったんです。 20歳も年下で、しかも男ですよ。 今は独り身ですが、5年前に離婚するまで普通に女性と恋愛して結婚していましたから。 離婚原因は、よくある忙しすぎて構ってやれなかったってやつです。 聞くとナオヤは…… あ、その若者なんですが、同業者だっていうじゃないですか。 地方局で番組ADをしていて、月に1度、仕事で東京に来ていると言っていました。 ADなんて実際ツライ仕事ですよ。 その夜は下積み時代を思い出して話がはずみましてね。 ナオヤは背が高くて割としっかりした身体してるんですが、色白で、頬も首筋なんかもスベスベしていて、女みたいな肌してるんです。 へえー最近の若者は男でもこんなに綺麗なんだなあ、なんて見てたら、ナオヤの方から誘ってきまして。 俺は、いや、私は、男はダメだって言うと、 「だったら、いい機会だから試してみれば?」 なんて言いましてね。 今、冷静に考えれば、私がディレクターだから取り入ろうとしたのでしょう。 けど私も酔っていたし、忙しくして色恋から離れていたから人肌恋しくもあり、 つい出来心といいますか。まあ試してみてもいいかなと、ナオヤと一夜を過ごしたわけです。 男とは初めてだったのですが、それが予想外によくて、ですね…… しかも20も若い子でしょう。そりゃあもうね…… 鬱になりそうな時期もあったんですが、生きていれば良いこともあるもんだと思いましたね。 もう何年も忘れていた気持ちが蘇ったようでね。何もかも忘れて熱くなって、なんとも愉しい夜でした。 その後しばらくの間は周りから「何か良いこと、ありました?」なんて聞かれたりしてね。 それっきりと思っていたのですが、ナオヤから一か月くらい経って再び連絡がありました。 もちろん、はじめから本気にはしてませんでしたよ。こんなオジサンですからね。 それでも、会えば彼の年の頃の恋愛を思い起こして、若返った気になりましてね。この年になって再び恋心を味わえること自体が愉しくてねえ……。 それで、気づけば毎月会うのが楽しみになっていたんです。

ともだちにシェアしよう!