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第3話 - 5
10日ほどして成瀬くんは、報告したいと再び店にやって来た。
「先生、俺、なんか思ったのと違う感じになっちゃって……
スグ連絡しようと思ったんですけど、
これはこれで、まあいいかなと思って……
だけど、報告はしておこうと思ったんで、来ました」
成瀬くんが、歯切れ悪く、もじもじしている。
『なんか思ったのと違う感じ』って、なんだ?
先生の薬の効果が変だったとか?クレームは受け付けない約束なんだけどなぁ
先生の細い目が、いつもより少し大きく見開かれた。
「おや、どうなさったのですか?」
「それが俺、薬を間違えちゃって!
反対に飲ませてしまったんです…」
ボクは思わず声を上げた。
「え?? じゃあ、森先輩に惚れ薬を?カオルさんに恋心が薄れる薬?」
成瀬くんはカウンターのボクを振り返って頷いた。
「そうなんです……」
な、なんと……
っていうか、とんでもないドジっ子だよ成瀬くんっ……
驚きを隠せないボクに、成瀬くんは照れ臭そうな笑顔を浮かべて言った。
「でもまあ、これはこれで、よかったかな、と……」
ええーーーーーーーどういうこと??
なんで照れてるの??
ってことは?!
「じゃ、今は森先輩と?」
「はい。森先輩と付き合うことになっちゃいました。えへへ」
蘆屋先生は、ボクみたいに驚くこともなく、穏やかな笑顔で言った。
「成瀬くん、嬉しそうですね」
「はい。
間違えたって分かった時は、さすがに焦ったんですけど、
いろいろ考えると、こうなってよかったなって。
カオルさんのことは好きだったけど、冷静になって考えたら、森先輩がいるのに、俺にちょっかい出してくるような人間だし。
結局、おさまるところにおさまったんじゃないかナって。
先生、マジで、ありがとうございました。
先生ンとこ来て、よかったです」
爽やかな笑顔で、成瀬くんは帰って行った。
蘆屋先生が、機嫌良さそうな笑顔で言った。
「ルイ君、バーの開店まで、まだ時間あるから、ピアノの練習したら?」
「ありがとうございます。
それにしても、びっくりですね!まさかの展開でした」
「ふふふ 成瀬くん幸せそうでしたね、よかった」
「それもびっくりですよ!」
「ま、自分から一歩踏み出してアクションを起こせば、その先が開けるってことでしょう。
解決したいという思いで踏み出した、彼の行動が招いた結果でしょうね。
君のピアノだって、そうして新しい挑戦をしていれば、何か予期せぬ展開があるかもしれませんよ」
なるほど~
ん?でも、ボクのピアノに何か新しい展開があるってこと?
どんな?何があるっていうんですか!?教えて先生~
って言っても、教えてくれないんだろうなー
この先何があるか、全然思い浮かばないけれど、とりあえずピアノ弾こうっと。
(第3話 END)
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