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第4話 【鈴木さん(元家庭教師)】 - 1

 カラン カラン…… 店のドアが開いた。 「ルイ君、こんばんは!ちょっと早かったかな? あ、いいよ、ピアノ弾いてて。カウンター、いい?」 入って来たのは、鈴木さんという、ボクが中学の頃の家庭教師だ。 半年くらい前、たまたま店の前で偶然ばったり再会して以来、ボクがバイトに入ってる夜に、時々バーを訪れてくれている。 「鈴木先生」って呼んでいたら「今はもう先生じゃないんだから、鈴木さんでいいよ」というので、最近は鈴木さんと呼んでいる。 鈴木さんは鼻の形と顎から耳のラインがスッキリした美形だ。家庭教師をしてもらっていた頃は、すごくかっこいいなあと思っていた。 けれど半年前、言いにくいんだけど、髪がずいぶん薄くなっていて、びっくりした。最初は誰だか分からなかったほどだ。 すごく楽しくて大好きな先生だったから、ハゲなんて言いたくないけど、ハゲると、こんなにも印象が変わるものかと衝撃だった。 まだ20代のはずなのに。ずいぶん老けて見える。 それに、着ているスーツもくたびれてる。第一、肩の位置が合っていない。上着の丈も変に長い。ビジネスバッグの幅広いナイロンの肩紐が、さらに肩の位置をずらしていて、上着の型崩れをだらしなく助長している。 痩せ気味で胸板が薄く、それでいて腹が出始めている。いわゆるメタボ体形一直線って感じ。 靴だって、ちょっとは磨けばいいのに。 靴下の色も、変だと思う。ダークカラーのスーツと黒い靴に、ワンポイントロゴの白いソックスは合っていない。 昔は、いつもポロシャツにジーンズ、スニーカーという大学生らしいスタイルで、カッコいい先生だったんだけどな。 それでも、顔は昔の面影は残っていて、思いやり深い目元と優しい表情も、おおらかで明るい人柄も昔のままで、ボクにとっては今も良いお兄さんだ。鈴木先生が店に来てくれて、こうしてまた他愛ないおしゃべりができるなんて、ボクはとっても嬉しい。 鈴木さんはいつもの感じでカウンターの端の椅子に腰かけた。 「蘆屋(あしや)さん、こんばんは。 ちょっと早いけど、いいかな?1杯だけ!」 「ええ、もちろん。今日はお仕事、早く終わったんですね」 「うん、営業先が近くだったから、直帰にしたんだ」 「何かいいこと、ありました?」 「うん、ちょっと、ね!」 「そういえば、こないだ、初めての合コンでしたよね?」 「そうそう!それでさぁ、この後、6時半に待ち合わせて2人で出かけることになったんだよ」 「へえ、それはよかったじゃないですか。それで今日は1杯だけ、なんですね」 「うん。近くで待ち合わせだから、少ししたら出るよ」 鈴木さんは嬉しそうにひとしきり蘆屋先生と話した後、鼻歌まじりに、ウキウキした足取りで店を出て行った。

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