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第5話 【ルイ君の話】 - 1
蘆屋(あしや)先生に初めて会ったのは、ボク、藤原ルイが中二の冬だった。
その頃ボクは、通学電車で見かける他校の学生に憧れていた。当時大好きだった人気バンドのヴォーカルに似ていたからだ。
友人づてに、彼の名前が朝倉(あさくら)で、ボクよりも1つ上の学年だと分かった。
朝倉くんは、ボクの乗る次の駅から乗って来る。そして、ボクが下りる1つ先の駅まで乗っていく。
学校の行き帰り、ボクは朝倉くんを初めて見かけた車両に乗るようにした。
朝倉くんは行きも帰りも、上り側3両目、真ん中のドアに乗っている。朝倉くんの友人たちも途中駅から乗って来る。
ボクは、電車がホームに入ると朝倉くんの姿を探し、見つけると乗り込み、姿がない時は、乗らずにやり過ごして次の電車を待っていた。
同じ方向に帰る、仲の良いクラスメートが数人いた。電車をやり過ごしていると、
「ルイ、乗らないの?」
「うん、もう少し待つ」
「また、あの人待ち?好きだね~。仕方ないナ、オレらも付き合うよ」
「ほんと?いいの?」
ボクが朝倉くんのファンだと知っていて、よく一緒に電車を待ってくれた。
「ルイ、告ればいいじゃん」
「いや、無理!……恥ずすぎる」
「でもルイって、ウチの学校でもモテるじゃん。男にも女にもさ。イケるんじゃね?」
「いやだ。絶対。話しかけるとか、ホントに無理!」
「話せないんじゃ、付き合えないぞ」
「別に、付き合いたいとかじゃないもん」
ボクは朝倉くんに憧れすぎて、声をかけるなんて、とてもできないことだった。
だいたい、何を話せばよいのか見当もつかない。
見かけたらラッキー!
って、遠くから見ているだけで十分だった。
目が合うのも恥ずかしい。だからいつも、目が合わないよう気を付けながら、少し遠くから見ていた。
ある日教室で、違う路線のクラスメート、原田がボクに声をかけてきた。
「おいルイ、お前、好きな人いるんだって?どんなヤツ?」
「どんなって……まあ、カッコいい、かな」
原田は体格がよく、元気がいい。よく言えば天真爛漫だろうが、ウチの学校では乱暴者に分類されていた。割とボクのことを気に入っていたようで、何かというと話しかけてきた。
「写真とか、ないの?」
「ないよ。電車で見かけるだけだから」
「じゃオレ、見に行くわ」
「え、なんで?」
「だって、ルイの好きなヤツ、見たい。明日、見に行く」
原田がボクの席から離れると、いつもの通学仲間が寄って来た。
「なんだ、あれ」
「原田、変じゃね?」
「見たいってなんだよな、ホントにホームまで来る気かよ」
次の朝、ホームを降りると原田が居た。
「ルイ!おい、どれ?どの人?あそこの?」
朝の人込みをかき分け近寄って来て、ホームから車窓を指さしながら大声を出す原田。
恥ずかしい……。
「原田マジで来たのか」
「おいおい、信じられねーな!」
「ルイ、相手することないよ、行こうぜ」
原田がボクの腕をつかんだ。
「おいルイ、ちょっと待てよ!教えろよ」
ボクは仕方なく、電車の方を振り返った。
視線の先に、こちらを見ている朝倉くんがいた。
目が合ってしまった気がした。……恥ずかしい……。
「あいつか、名前は?」
「朝倉くん」
「へえ~」
ボクたちは、みんなで連れ立って登校した。
しばらくして、ボクにとっての事件が起きた。
バレンタイン近くのある日の放課後だ。
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