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第6話 【藤原真理愛さん(ルイ君の姉)】 - 1
ルイ君が初めて私の店に来たのは、彼が中二の冬。
私、蘆屋 優斗(あしや ゆうと)が恋愛セラピーをはじめた頃でした。
店の前をふらふらと歩く姿が、苦しそうな気をまとっていたので声をかけたのです。
淡い栗色のふんわりウェーブがかかった髪と、ほっそりと小柄な身体、うつむいて前髪に隠れがちだけど、時折見上げると宝石のように輝くブルーがかった灰色の瞳が印象的な、華奢で可愛らしい、人形のような少年でした。
恋と呼ぶには淡すぎる想いに悩む姿は、切ないほどいじらしく純粋そのもので、微笑まずにいられませんでした。
次に彼に会ったのは、それから4年後。彼が高校3年の冬です。
1月半ばのある寒い日、ルイ君にとてもよく似た感じの女の子が恋愛セラピーにやってきました。
名前は藤原 真理愛(フジワラ マリア)さん。大学2年生。愛らしい容姿とは裏腹に快活で、ハッキリした物言いと豊かな表情。怖いもの知らずの賢こいお嬢さん、という印象。
彼女の相談はこうでした;
まず、友人の話です。
大学の友人に彼氏ができたんです。ものすごくノロケ話を聞かされていました。
彼女は千葉県出身で、今は大学近くで一人暮らしです。
先月、彼女の高校生の妹が遊びに来るというので、私も彼女の部屋を訪れていました。
三人こたつを囲んで楽しくおしゃべりしているところに、その彼氏が訪ねてきました。
聞いていた通り華やかな雰囲気で、俳優の佐藤ナントカっていう人に似ていて。彼を見るのが初めてだった妹さんと私は、キャッキャと大騒ぎでした。
彼氏も一緒に四人でおしゃべりしていると、こたつの中でその彼が、私の足をしつこく足で触ってきたんです。私はハッと驚いたけど、きっと彼女の足と間違えたんだろうと思って、さりげなくトイレに立ちました。
その帰り、妹さんと2人で駅に歩きながら話してたら、なんと、妹さんも、こたつの中で、ずいぶんしつこく足を触られたと言うんです。
「たぶん、姉の足と間違えたんですよ。姉には言えないですけど!あの彼氏、絶対すごいエロですよねぇ」
その日は、笑い話で終わりました。
次に、弟の話です。
私には2つ年下の、高校生の弟がいます。
弟が夏頃から変なんです、浮かれてるっていうか。
ウチは厳しい家で、友達の家に遊びに行くのも親がいい顔しないんです。それで、特に弟は、外泊なんて、したことありませんでした。それなのにあの子、時々外泊するようになって。彼女ができたんだな、と思いました。
それだけなら、別に珍しい話ではないんですけど。
問題は、相手です。男で、しかもそれが例の彼氏らしいんです、足を触って来た人。
どうして分かったか?ですか、
大学の近くで見たんです。
弟が、その男の車の助手席に乗り込んで、キスしてました。その夜は帰って来なかったですね。こないだは、友人宅近くの路地で抱き合ってました。
それだけでも驚きましたけど、その男が先週、私に言い寄ってきたんです。
学内の廊下で、壁ドンで。
「マリアちゃん、だよね。俺とつきあってよ」って。
友人とはどうしたの?って聞いたら、
「あのコとは、前から別れたかったんだ。相談にのってほしい。
あのコ、ちょっとヤバいだろ。病んでるっていうの?
何かあったらマズいから、このことは絶対他人に言わないで」
って言うんです。
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