22 / 88

第6話 - 3

「薬を飲まされて眠っていますが、まだ全部は脱がされていません」 私はバスタオルの上からルイ君を抱きしめました。 顔色が蝋人形のようで呼吸も細く、だらりと重力のままに垂れ下がる肢体はまるで死体のようでした。柔らかな栗色の髪は濡れてペシャンとしており、頬に触れる顔も、脱力した腕も手も冷たくて妙にぶよぶよしており、長いまつげはピクリとも動かず、薔薇色だった唇は紫というより灰色がかって…… 生気が失せており、私は、胸がつぶれる思いでした。 こんな形で再会するなんて…… 「私はルイ君を連れて帰る。ここに他の証拠品が色々あるだろう。ルイ君のものがあれば、すべて処分してくれ。彼らの処分は警察に任せるよう。頼んだよ」 式神を残し、急いで部屋を出ました。 ルイ君をバスタオルにくるんだまま車に乗せて店に連れ帰りました。 4 年前より 10 センチは背が伸びているだろう。相変わらず華奢ではあるけれど。眠っている顔も、まだあどけない。   つらい恋をしたのだね…… 私のシャツを着せて長椅子に寝かせました。 しばらくして目を覚ましたルイ君は、はらはら涙をこぼし、ただただむせび泣いていました。私は、ルイ君が早く元気になるよう薬を調合し、飲ませました。 「ボクは……ボクは……」 「もう大丈夫ですよ、ルイ君。無事でよかった。何も言わなくていい、さあこれを飲んで。 ゆっくり休んでから帰るといいですよ」 2日後、ルイ君の姉のマリアさんが再びやってきました。 マリアさんの友人用に調合した薬を渡し、飲ませるよう言いました。 ルイ君のことは、ざっとあらましを伝えるにとどめましたが、彼女は勘の良い娘で、唇を噛んでいました。 「先生、私、あの男に思い知らせてやりたい。許せないです」 「マリアさん、今すべきは、彼ともう関わらないことです。 今回の事を思い出すのも、やめた方がいい。思い知らせようなんて考えも、もう捨ててください。自分が傷つくだけです。 あなたが、あんな男のために心を傷めたり、その手を汚す必要はありません。せっかく綺麗なのに。もったいないですよ。 いいことも嫌なことも全て、必ず自分に返ってきます。だからもう自分を傷つけてはいけない」 「でも、ルイや友人の気持ちはどうなるんですか。可哀そうじゃないですか」 「起きた事は変わりませんけれど、生きていれば色々避けられないこともあります。けれど、人間は忘却の生き物です。時が解決してくれることもあります。それに、どんなことが糧になるか、分からないものですよ。 マリアさんは正義感の強い、優しい人ですね。その優しさを自分のために使ってください。あなた自身が、心穏やかに過ごす事に集中してください。 そうしていれば大丈夫。 すべて、進むべき方向に進みます」

ともだちにシェアしよう!