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第6話 - 4
それから、もうすぐ桜が咲くという頃、ルイ君が店にやってきました。
「先生、こないだは本当にありがとうございました。先生がいなかったらボク……」
声を詰まらせるルイ君に、よかったら私の手伝いをしてくれないかと話しました。
「少し忙しくなってきたので、アシスタントが欲しかったのです。もちろん、アルバイト代はちゃんとお支払しますよ。ルイ君さえよければ、ぜひ」
「やりたい!やらせてください!でも、ボクなんかでいいんですか?」
「もちろん。私はルイ君に来て欲しいと思っていますよ。じゃ、早速来週からお願いします」
そうして、ルイ君が私のもとに通ってくれるようになりました。
数週間経ち、次第に打ち解けて表情も落ち着いてきた頃、店に小さなグランドピアノを購入しました。
ルイ君は嬉しそうに、アルバイト中にも、ピアノに何度も何度も触れていました。
「ルイ君、確かピアノ弾けるって言ってましたね。せっかく買ったんだもの、空き時間に好きに弾いていいですよ」
「本当ですか!嬉しいなあ!ボク、いつかグランドピアノのある部屋に住むのが夢だったんです!って、ボクのものじゃないですけどね、でも嬉しいな。このお店も居心地よくて大好きだから」
よかった。
セラピストにとって最も大切なことは、自分自身が機嫌よくいることです。ルイ君は今では、私が機嫌よくいるために欠かせない、大切な存在です。
私が、陰陽師の一族であることを大っぴらにしない理由、ですか?
それは確かに、私の一族が背負ってきた歴史的背景も一因ですが、私が、陰陽師の術を公の生業としていない為です。
あくまで、人知れず悩める恋人たちのためにそっと、ちょっとしたエッセンスで恋をサポートする恋愛セラピストでありたいと願っています。
(第6話 END)
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