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第7話 - 3
その一件で、ひょっとして先輩って本当は女性経験ないんじゃないのか?と疑いだしたんです。
わざと他人を陥れるような人じゃないですからね。だったら素で言ったハズなんですよ。
そうなんス、
僕、結構カンがいい方なんで。
それから改めてよく観察してみたら、プライベートで女の影が全然ないことがわかりました。あれだけカッコよくて優しくてモテるのに、おかしいと思いました。
それで、思い切って告白しました。
最初は驚かれましたけど、僕が本気だと分かって、真剣に向き合ってくれて、はい。
はい、本当に良かったです~! ありがとうございます!
イヤね、前回は、そこンとこ相談したかったんですけど、そこはもうクリアできました。ははは
え? いや、
ちゃんと悩みありますよ~! だから来たんですもん。
今日はまた別の相談なんです。
そう、ここからが今日の本題です! あ、また時間オーバーしちゃうかな。話、進めますね。
付き合い始めたのは良いんですけど、先輩が僕のこと、本当はどう思ってるのか心配で……。先輩は「そんなことない」って言うんですけど、優しい人だから、流されてるだけで本当は好きではないのかもしれない。そんなこと考えて、頭がグルグル、そのループから抜け出せなくなってるんです。
ええ、それはですねぇ、
結論から言いますと、先輩、童貞だったんです。つきあうのも、キスもセックスも僕が初めてみたいです。いや、それはいいんです。むしろ嬉しいし。問題はそこじゃなくて……
はい、もうそういう関係です。結構な頻度ですね。
なのに、泊まらないんです。一度も朝まで一緒に過ごしたことがないんですよ。行為が終わると、絶対に帰っちゃうんです。
僕が寝ている間に帰っちゃうこともあって、そういうの、朝起きた時、すごい寂しいじゃないですか。
風呂ですか?
風呂は入ってますね、でも一緒ではないです。
いつも先輩は先に風呂入って用意して待ってくれてるんです。
家で待ってる人がいるのか、と最初は疑いました。で、先輩の後をつけたりしてみたんですけどね。部屋も、他人が来た気配はまったくありませんでした。新聞とか、宅配業者だけですね。
一度だけ、女の人と待ち合わせてたのを見ました、会社帰りに。
後を付けたんです。雰囲気的に、恋人とか、そういうのではないと思うんですけど……
そうですよね、そうですよね。直接本人に確認すばいいですよね。
でも勇気がなくて……いやでも、はい。おっしゃる通りです。
もうちょっと様子見て……確認してみます。
あ、今日はこれで帰ります。
また来ますね、今日はどうも。お時間とらせました、ありがとうございました。
しゃべるだけしゃべって自己完結し、慌ただしく帰っていった。
また来るつもりか。
「石井さんって、わざわざ恋愛セラピーに来る意味、あるんですかね?」
石井さんを戸口まで見送ってから、ボクは先生を振り返った。
「話すことで頭の中が整理できる事もありますからね。彼にとっては、話す場所がある事が大切なんでしょう」
ふうん。そういうものか。
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