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第8話 - 2

その夜、もうすぐバー開店という時に、勢いよくドアが開いた。 カラン カラン カラン カラン…… 勢いよく飛び込んで来たのは、石井さんだった。 「蘆屋先生!聞いてくださいよ!大変なことがわかったんです!」 「どうしました石井さん、そんなに慌てて。まあお掛けください」 開店前で、店内には他にお客さんもいない。 「先輩が、先輩が……!」 「石井さん、落ち着いて。何がありました?」 「今日、部長と話している時に、髪型の話になったんです。で、僕が先輩の髪型を褒めたら、部長が『あいつはヅラだぞ』って言うんですよ! 冗談かと思ったんですけど『みんな知ってるぞ。お前、気づかなかったのか?お前が入社する少し前、あいつが突然ヅラ着けて来たんだ。みんな驚いたよ。相当薄かったから、全員スグ分かったよ。突然、毛が増えてんだから』って。 僕もう、びっくりしちゃって! それで会社終わって急いで来たんですよ!」 蘆屋先生が咳払いをした。 「ルイ君、開店準備お願いします。このグラスをあちらに運んで、あと音楽もね」 「あっ、ハイ」 石井さんの話が気になるけど、お仕事、お仕事。 久しぶりにクラシックのピアノ曲集を選んだ。 蘆屋先生は何か飲み物をつくって、石井さんに出した。 「さあ、これどうぞ。落ち着きますよ。 で? 石井さん、どう思ったんです?」 「どう、って…… ただもう驚いちゃって。 っていうか、ショックです。 何がショックかって、ヅラもショックですよ? だけど、一番近くにいると思っていたのに、僕だけ知らなかったなんて。バカみたいじゃないですか、僕。先輩、なんで言ってくれなかったのかな。 でも、それ知って、全部つじつま合いました。夜泊まっていかないのも、一緒に風呂入らないのも。ヅラだってこと、僕に隠してたんですね…… なんで! なんで言ってくれなかったんだろう? 僕を信用してないってことでしょう?」 「んー、そうでしょうかねぇ?」 「んんまぁ、言いだしにくかったとは思いますけど……」 「好きだからこそ言えない事って、ありますからね」 「でも、隠さなくてもいいじゃないですか……」 そこまで話すと、石井さんはウイスキー水割りをオーダーし、ゴクリと飲んで黙り込んだ。 石井さんも黙る時があるんだな。静かな石井さん、初めて見た。 開店して少しすると、鈴木さんがやって来た。本日二度目のご来店だ。 「ルイ君~、蘆屋さ~ん、また来たよ~」 声を聞いて、うつむいていた石井さんがハッと頭を上げた。

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