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第10話 - 2

本日の相談者は、津川 拓海(つがわ たくみ)さん、IT関連会社勤務の26歳。カジュアルなベージュのジャケットが似合う、よく通る声のさわやか青年だ。 「こんにちは、津川さんですね。  お待ちしておりました、セラピーへようこそ。こちらへどうぞ」 ボクはいつものように奥のテーブル席にご案内し、いつもの説明を一通り行う。 蘆屋先生が白衣を着てテーブルに着き、カウンセリングが始まった。 津川さんの話はこうだ;  僕が勤めているのはIT関連の会社ですが、母体は個人オーナーとしては国内の業界では最大手です。 昨年、社長の息子がアメリカから帰国して、親会社の役員と子会社社長を兼任する事になりました。 それで、僕はもともと子会社の企画営業部でしたが、親会社の広報に起用されました。 会社として初の広報で、僕1人な上に、僕自身未経験の職種で、最初は戸惑うことばかりでした。 社長の息子は小松 勝利(こまつ かつとし)と言います。 まだ36歳ですがハーバードでMBAを取って、大手コンサル会社に勤務していたキレモノです。名前の音読みで『勝利(しょうり)』さんと呼ばれています。人柄も明るくて笑顔が魅力的で、同じく役員直轄の総務部メンバーともすぐに馴染んでいました。 僕は文学部卒で、経済や経営の知識も興味もなかったのですが、勝利さんの視点や考え方、教えられること何もかもが新しくて面白くて。もっともっと勉強したくなって時間が足りないほどです。 もともと僕は裁量労働のフレックスタイムで勤務は自由な方で、同僚も仕事も好きで遅くまで働いていたのですが、勝利さんと仕事するようになってますます面白くて、さらに遅くまで仕事するようになりました。すごく楽しいんです。 勝利さんは社外にもあちこちよく連れだしてくれます。 品川駅近くのホテルのレストランバーや六本木の会員制レストラン等で食事を兼ねて2人で打合せすることもよくあります。そういう場も知っている方が良いからって。 箱根や河口湖の保養所にも何度か一緒に視察に行きました。 勝利さんは話も上手くて、たまには仕事以外のプライベートな事も話してくれます。 アメリカでの学生生活や職場の事、文化的ギャップや現地のご友人たちとの休日、奥さんやお子さんの話など、どれも面白くてワクワクします。勝利さんとの時間は本当に楽しいです。 役員同士で飲みに行く席にも最近はよく同席させてもらっています。 個人では行ったことのないような寿司屋や料亭にも連れてってもらって。 他の役員も親しくしてくれて、彼らの普段会社で見せるのとは違う人間的な一面を知れるのも面白いです。

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