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第10話 - 4
藤本さんの言う「つきあい」ってなんだよ?! って、
まあ恋愛関係を指しているのでしょうけれど、僕と勝利さんはそういう関係は一切ありません。
第一、僕には恋人がいて、彼以外と恋愛関係になろうなんて考えは全くないんです。
それに勝利さんには大事な家族もあるんですから。
まったくあり得ない話ですよ。
何度否定しても、あまりにもしつこいから、僕は面倒になって、
「そりゃ上司と部下としては、ありますよ」
と言ったんです。
そうしたら、逆に藤本さんは鬼の首を取ったように勢いづいて目を見開き、さらに大声で
「ほーら、やっぱり付き合ってるんだ! おかしいと思ったぜ。
お前ら、毎晩ホテルに行ってるだろ!」
なんて言いだしたんです。
呆れました。
でも、それを聞いていた周りのメンバーがざわっとして。
吉田さんも妙な顔していました。
その次の日から、藤本さんの喫煙所仲間が僕を見る目が変な気がするんです。
吉田さんの態度もどこかよそよそしいし。
社内もなんだか居心地が悪くて、かといって、どうしたらよいものかと。
急に自分から話題にするのも変でしょう。
第一、誰に話せばよいのかわからない。
あの時、あんな中途半端なこと言わずに、もっと強く否定すればよかったのか、と思ったり。けど、あれ以上、酔っ払いに大騒ぎされるのもイヤだったし……
って、今さらどうしようもないんですよね。
それで煮詰まっちゃって、相談に来たんです。
津川さんの話を聞き終わる頃には、すでに60分が過ぎようとしていた。
「先生、時間になりました」
ボクは小さく告げた。
先生はボクの方を振り返り、軽く頷いた。
「津川さん、その吉田さんという方はお姉さんのような人だと言いましたね」
「はい」
「吉田さんに一度、話してみてはいかがでしょうか?
彼女にまで疑惑の目で見られているとずいぶん居心地が悪いでしょう」
「そうですね。わかりました。まず吉田さんに話してみます」
「それから、よかったら、またいらしてください」
「はい」
津川さんは晴れない表情のまま店を後にした。
次に津川さんがやって来たのは、それから3週間ほど経った頃だった。
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