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第10話 - 5
津川さんの話では、事態は少しも好転していない様子だ。
居づらい雰囲気の中で耐えているとのことだった。ツラそ~~~!
人の噂って始末が悪い。
飽きられるのを待つしかないのかな。
けど誤解されたままっていうのは気分的にイヤな感じだろうな。
でも、仕方ないのかな……
津川さんは続けた。
「思い切って転職しようと思うんです。
会社の経営状態もよくないですし。
給料が上がる見込みもないと先日言われたんです。
仕事内容は好きですけど、入社してから一度も昇給してないんです。
年俸なのでボーナスも残業代もないし。
この業界こんなものだろうと思ってきたんですけど、やっぱり給料が何年も全然上がらないっていうのはキツいですね。
少し前から広告代理店に行ってる大学の先輩が声をかけてくれてまして、今までの経験も活かせそうなんで、そっちに行くのもいいかなと。
待遇も今よりよくなるみたいだし、悪い話じゃないですよね」
なるほど、会社を変わるというのはひとつ良い選択なのかもしれないな。
蘆屋先生は黙って聞いていたが、最後に口を開いた。
「それもひとつの選択ですね。
もう会社にはそのことを話したのですか?」
「いえ、まだです。全部決まってから話そうと思っています」
「そうですか。
話す時は必ず、タイミングに気を付けてくださいね。
上司の方は恐らく津川さんを引き留めるはずです。スムーズにいくと良いのですが……
念のため、薬を使うと良いと思いますが、どうしますか?」
「確かに、もめるのはイヤですね。辞める・辞めないで話が長引くのも面倒だし……
そうですね、お願いします」
蘆屋先生が小さな薬瓶を用意し、手渡した。
「退職の話を切り出す時に、お茶かコーヒーか何か飲み物を用意してください。
気付かれないようにこの薬を数滴たらして。
必ず、上司の方が飲んだのを確認してから話を切り出してくださいね」
先生から薬をすすめるケースは珍しい。
何か気にかかることがあるんだろうか。
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