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第11話 - 4

圭太くんの話では、ユミちゃんが駅の階段で転びそうになったらしい。 お見舞いの後に病院で解散してから、圭太くんは本屋やコンビニに寄って駅に向かった。地下鉄の階段を降りようとすると、少し先にユミちゃんが降りているのを見かけ、声をかけようとした。その時、ユミちゃんが突然、前のめりになって転びかけた。圭太くんはとっさに手を伸ばしてユミちゃんの腕をつかみ、事なきを得たのだという。 「ユミちゃんも海斗と一緒だよ。誰かに押されたって言うんだ。  でも、ユミちゃんの後ろにはオレしかいなかった」 ボクは電話を切った後、すぐに蘆屋先生に話した。 蘆屋先生は難しい顔をしている。 「海斗くんはまだ入院中ですか」 「はい。昨日手術だったから、あと1週間くらい入院だと思います」 店を閉めて片付け終わると、先生は封筒を3つと小瓶を1つ、ボクに渡した。 「この封筒は、圭太くん、海斗くん、ユミさんに渡してください。ずっと身に着けているように言ってくださいね。お札が入っています。 それからこちらの瓶は、3人に飲ませてください。水に数滴ずつ垂らしてね。 あと、食べものには気をつけるように言ってください」 「先生、どういうことなんですか」 「女が見えるんです。目の大きい、色の白い、若い女」 「女が見えるって… 先生って、霊能者なんですか?」 「ちょっと長くなるけど、」 と前置きをして、先生は話してくれた。 先生の家は陰陽師の家系らしい。 陰陽師に関するボクの知識といえば、映画にもなった安倍晴明という名前やマンガで読むくらいだ。そんなボクに先生はわかりやすく説明してくれた。 その安倍晴明は平安当時の朝廷の官人なって以来代々公式の陰陽師として活動してきた家だが、蘆屋はもともと民間の呪術師集団で、その子孫が日本各地で陰陽師や呪術師、祓い屋や拝み屋などとして続いているのだという。 先生の家もそのひとつだそう。先生にはお兄さんがいて、家業はそのお兄さんが継いでいるそうだ。先生は家を出ているけれど、必要に迫られてお祓いをすることもあるということだ。 「じゃあ、先生が見えるっていう女って、霊か何か?」 「そうですね」 「じゃ、この薬は?」 「お祓いのためです。口から入る念って、強いんです。  間に合えばいいんですけどね。海斗くんが退院したら、3人をここに連れて来てください。 それまではこのお札と飲み薬で」 「わかりました」 翌日学食で、圭太くんとユミちゃんにお札の入った封筒を渡し、水に薬を垂らして飲ませた。 「ボク、これから海斗くんのところに行って来るよ」 「じゃあオレも行こうかな」 「あ、じゃあ私も行きます」

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