52 / 88

第11話 - 10

「ルイ君、みんなに煎茶を入れてくれますか。  こちらで一緒に飲みましょう」 お茶のセットを持って、みんなの囲むテーブルに加わった。 3人とも放心している様子だ。 お茶を一口飲んで落ち着いたのか、海斗くんが神妙な顔で口を開いた。 「先生、ありがとうございました。  実はオレ、どうしたらいいか分からなくて怖かったんです」 もともと饒舌ではないタイプの海斗くんなんだけど、ポツリポツリと言葉を選びながらこれまでの事を話してくれた。 海斗くんは、出会って間もなくトモちゃんに告白されたそうだ。 一目を惹く容姿で人気者の彼女に告白されて悪い気はせず、誘われるまま一緒に食事や買い物に行くようになり、そして部屋に誘われた。 清純そうなイメージのトモちゃんだが、部屋に入ると積極的で、キスをしてベッドに押し倒された海斗くん。 「据え膳食わぬは男の恥」と、一度は流されベッドインした海斗くんだったが、トモちゃんの行動とそれまでのイメージとのギャップがどうにも汚らしく思えて、気持ちも下半身も萎えてしまったのだそうだ。 トモちゃんはそれでも何とかしようと精一杯粘ったけれど、トモちゃんが頑張れば頑張るほど、海斗くんは情けなく、嫌悪感が増すばかり。 気まずい気分でトモちゃんの部屋を後にした。 その日以降、海斗くんはトモちゃんと距離を置くようになった。 同じ頃、圭太くんの誘いでサーフィンに行くようになり、平日も休日も圭太くんと過ごすことが増えた。 トモちゃんからの連絡も少なくなり、ほっとしていたら、金縛りに合うようになった。原因不明の下痢が続くようになったのも、その頃からだ。 最初は風邪か何かだろうと気にしていなかったけれど、金縛り最中に黒い影が見えるようになった。その影は日を追うごとにはっきりした形になり、転落事故の前ごろには、その黒い影が女の形に見えていた。 気味悪く思っていたけれど、誰に何と相談したらよいか見当も付かず。 そんな時に、ユミちゃんまでが転落しそうになった事を聞いて動揺。 そこへボクが登場したという。 やけに素直に蘆屋先生の指示に従ってくれたのは、そういうワケだったのだ。 「でもオレは童貞ではないので」 海斗くんの話はそこで終わった。 海斗くんは童貞ではないことについては妙にハッキリ、何度も言っていた。

ともだちにシェアしよう!