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第12話 - 7
次に岡山さんがやって来たのは、あれから3カ月ほど経った頃だった。
難関の社内試験に合格し、約1か月後の9月からニューヨークへMBA留学が決まったという。すごいな。
ボクと蘆屋先生が「おめでとうございます」と言うと、それについては笑顔で礼を述べるものの、それ以外はなんだか浮かない表情だ。
英会話の先生のジョージのことだろうか、それとも例の友人の小池さんが原因?
ボクはそんなに問いたげな表情をしていたのだろうか、岡山さんはボクに軽くうなずくと、うつむきながら口を開いた。
「そうなんです、ちょっと、ね。
前回お話しておりました、友人の小池も合格しました。
9月からは2人で一緒にニューヨークです」
へえ~、すごいな。小池さんも合格したのか。2人とも優秀なんだなあ。
「あれから、ボクは小池とは別々に勉強するようにしたんです。それで少し距離を置くこともできていたのですが。
合格発表があった後、小池から連絡がありましてね。
私も驚いたのですが、小池が……小池は僕が好きだと。そう言われたんです。
そう、恋愛の意味で」
ええっ!
声は出さなかったものの、驚いた顔をしていたのだろう。岡山さんは続けた。
「ビックリするよね、僕も驚きました。
てっきりあいつはジョージに気があるんだと思っていたから……」
ボクもそう思ってましたよ!
ボクはつい大きくうなずいた。
蘆屋先生がボクを見て咳払いをした。
あ、すみません、つい……
という気持ちを目で伝え、ボクは手元に視線を落とし、カウンター内のグラスを意味なく並べ替えてみたりした。
カウンセリング中は、ボクはなるべく空気のように控えているよう言われているのだ。
ボクの私情がクライアントをリードしないためだ。
岡山さんは自分の悩みで頭がいっぱいなのだろう、自分の事をいつのまにか「私」じゃなく「僕」と言っている。ボクと蘆屋先生の言外のやり取りにも気を留める様子がなく、斜め下に視線を落としたままポツリポツリと話をつづけた。
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