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第12話 - 8
「小池とは中学から一緒だから、あいつの事はだいたい分かってるつもりだったんですがね。全然気付かなかった。まさかね……」
蘆屋先生が口を開いた。
「ジョージさんとは、最近どうですか?」
「ああ、はい。試験も終わったので、レッスンはひとまず終了ということにしまして。週末に会ったり会わなかったり、そんな感じです。留学の準備もあって私も忙しくて……」
へーそうなの? あんなにアツアツだったのに。
ボクは今度は顔に出さないように、カウンターの内側に視線を落としたまま心の中だけで感想を述べた。
蘆屋先生が会話を続けている。
「そうですか。
それは、悩みますね」
「そうなんです。どうしたものかと」
「小池さんは、岡山さんとジョージさんの事はご存じなんですか?」
「いえ、いやどうだろう、
誰にも言っていないし、知られないよう気をつけてたつもりですが……」
「そうですか。
どうなさるんです?」
「うーん、悩んでいるところではあるんですが。
小池は私にとって大事な友人であることは確かなんでね、ちゃんと考えなくてはいけないと思ってるんです。他に、こんなに長く親しく付き合ってるヤツもいないんで」
「そうですか。
急ぐ必要はないと思いますよ。しっかり考えてあげられるといいと思います」
岡山さんはパッと顔を上げ、蘆屋先生の目を見てしっかりうなずいた。
何か、気分に区切りがついた様子だ。
「そうですね。
ありがとうございます。
やっぱり来てよかった」
それからしばらく、試験の話や留学の事、引越しの準備や担当業務の引継ぎが大変だとか、ひとしきりおしゃべりをして岡山さんは帰って行った。
心なしか、足取りが軽くなっているようだった。
岡山さんの後ろ姿を見送っていると、ボクの後ろに立っていた蘆屋先生がボクの頭に手をのせ、軽く肩に引き寄せた。
「おつかれさま。
最近ルイ君は随分、表情豊かになったね」
「はっ! 今日はすみませんでした! つい……」
今日は随分、岡山さんの話に前のめりだったかもしれない。
ボクは急に恥ずかしくなって、顔が熱くなった。
「まあ、いい事だよ。
カウンセリング中だけ、ちょっと気をつけてくれればいいから」
先生は笑いながらボクの頭にのせた手を軽くポンポンとした。
あれ? こんな風に頭ポンポンされるのって、そんな悪くない……かも?
後日ニューヨークに渡った岡山さんからメールが届いた。
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