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第14話 - 5
どんなつきあい、かぁ……
一瞬どう答えようか迷った。
顔は嫌いじゃなかったし、初めての体の関係にボクは夢中だった。射精は当然気持ちよかったと思うけれど、あとは毎回ワーッとなって、よく分からなかった気がする。とにかくただ、セックスをすることによって、それだけで大人になったような気がしていた。もうボクは子供じゃないんだって。
出会ったきっかけも、そんな風に会うようになったのはどうしてなのかも思い出せない。ボクは飲み物を回し飲みするのさえ他人の唾液が気持ち悪くて嫌なのに、キスもしていたんだよな、口と口で。どうしてそんな事になったんだろう。いや、あまりキスはしなかったのかな。それさえ思い出せない。ただ、会っている間はほとんど体を合わせていたような……。だって、それ以外ほとんど思い出せないんだもの。
ある時から連絡がつかなくなったけど、細かいことが、霧がかかったみたいでよく思い出せない。あの人の顔さえも。今町でばったり会ったとしても、もしかしたら気付かないかもしれない。いや、たぶん、気付かないだろうなぁ。
それからしばらくは、心にぽっかり穴が空いたようですごく悲しかった気がする。けれどそれもだんだんと、砂で作った城のように日を追うに連れ輪郭がおぼろげになり、砂山になり、気付けば形もほとんどなくなっていた。
ふと浮かんだ言葉がしっくりくる気がして、口にした。
「まあ、ハッキリ言って『若気 の至 り』です」
暁星 さんは一瞬、面食らった様子だったが、次の瞬間、爆笑していた。
「はははは! 『若気の至り』かあ! そうか、そうか」
ツボに入ったのか、笑いがこみ上げて止まらないようだ。ボク、何かおかしなこと言ったかな。
あんまり暁星 さんが可笑しそうに笑うので、ボクもつい、つられて笑ってしまった。笑いが笑いを呼ぶ。もう何が可笑しかったのか分からなくなって、それでも止まらなくて、腹がよじれてくる。
暁星 さんはあまり蘆屋 先生に似ていないけれど、どこかホッと安心できる雰囲気は似ている。心があたたかくなる。
そこへ、蘆屋先生が風呂から戻って来た。
「何、2人でずいぶん楽しそうだね?」
暁星さんは笑いすぎて涙まで出てきた様子だ。涙を指で拭いながら言った。
「優斗 、ルイ君がね、『若気の至り』だなんて言うんだよ、この若さで。可笑しいだろう。なんだよ『若気の至り』って!」
それからまた三人でひとしきり話をして、笑いつかれたボクはウトウトなって、気付くと翌朝、広いベッドの上にいた。
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