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第15話 【海斗くんの相談】- 1
海斗くんから個人的な相談があるという。
セラピーが入っていない日の夜のバータイムの開店準備時間なら店で2人で話せるからってことで、店に来てもらった。最近は開店準備はボクだけですることも多い。
この日も先生が店に出るまで十分に時間があった。
海斗くんとは、高校から同級の圭太くんつながりで知り合ったが、正直、ふたりで会ったり話したりする機会もなかったので、実際はよく知らない。でも悪いヤツではないと思う。どちらかというと温厚でおだやかで、気のいい海斗くんの親友という位置づけだ。
見た目でいうと、奥二重で鼻筋がスッとして漆黒の黒髪。左耳の小さなシルバーのピアスがよく似合っている。前はもっと色白だったが、圭太くんとサーフィンに行くようになって少し日に焼けて健康的な顔色になっている。あんまりしゃべらないタイプだと思う。そういうクールな感じが女子的にはカッコいいんだろう。
「コーヒーでいい?」
ボクが聞くと「ミルクが入ったのがいい」というのでエスプレッソマシンを立ち上げてカフェラテを作った。このところボクはラテアートを練習している。うーん何を描こうかな。
ハートはマスターしたけど、せっかくだから今練習中の木の葉を描くことに決めた。少~しずつ何段にも、スチームしたミルクを細く強弱を付けながら重ねていく。慎重かつ手早く、細かく強弱を加減するのは難しい。
「へえ、ルイくんそういうのもできるんだ。すごいね」
海斗くんが感心した様子でカウンター越しにボクの手元をのぞきこむ。
「うん、今練習中」
「すごいじゃん。ってか、ルイくんって蘆屋先生とつきあってんの?」
さりげなくブッこんできた。思わず手元が狂う。
おかげで木の葉がなんだかよく分からない形になってしまった。あーあ。
「え、なんで?
っていうか、ラテアート、なんか思ったのと違う感じになっちゃったけど許して。ハイ、どうぞ」
「ん……、マーブル?」
「……うんそうだね、マーブルだね」
海斗くんが大事そうに両手でカップを持って、ボクの出したカフェラテをすすった。
「うん、美味い。ラテアートもいいよ。マーブル良いじゃん。カッコいい。で、どうなの、先生とは?」
「え? どうなのって?」
「あれ、つきあってんじゃないの?」
「は? いやいや、そんなわけないでしょ」
「ホントに? 俺てっきり……」
実際考えたこともなかった。セラピーの相談者が男性の同性愛関連が多いからそんな想像するのかな? いや、海斗くんはそんなこと知らないはずだ。
「なんでそう思ったの?」
「なんとなく。雰囲気?」
雰囲気って……
「まあここのバイト気に入ってるから、馴染んでるってことかな?」
「マジでつきあってないの?」
「んー、考えた事なかった。だって先生は大人だろ?」
「大人? へえ、そっか、そうなんだ……」
海斗くんはあっさり話題を変えた。
「ルイくんさ、あそこ強い方?」
は? あそこ? これまた、話題がずいぶん飛躍したな。
念のため確認。
「あそこって?」
「まあ、シモの話?」
「ああー、シモの話か」
「童貞?」
「へ? イヤ、童貞ではない…… のか?」
あれ? 何? ボクってどうなんだっけ? そういや入れる方はまだだ。それって何ていうんだろ?
考えていると、怪訝そうに海斗くんがボクをじっと見る。ボクは咳払いをして改めて答えた。
「セックスの経験があるかないかでいうと、一応あるよ」
ボクが答えると、海斗くんは少しうなずいて安堵 の表情を浮かべた。
そこで安心するんだ、ははぁ、セックスの相談か。
というか、海斗くんってこんな風にグイグイ来るタイプだったのか。ちょっとビックリ。驚いてる顔見せないように気をつけよう。蘆屋先生に、ボクは思った事が顔に出過ぎだって、よく注意されているからなぁ。
「よかった。ルイくんはここで恋愛相談のバイトしてるから、絶対経験豊富だと思ってさ。まあとにかくさぁ、これから俺が言う事、変に思わないで聞いてくれ。
簡単に言うとさ、俺、アソコを強くしたいんだ。蘆屋 先生ってそういう薬も作ってんだろ?」
「ちんこを強くする薬?」
「うん、まあ、そうだね…… っていうかルイくんが”ちんこ”って言うな。似合わないから」
「でもちんこだろ?」
「まあそうだけど」
「相談できると思うよ。ちんこ案件多いよ」
「マジで!お願いしたい! ……でもその顔でちんこ連呼は止 めてくれ。なんかヤだ」
「なんで。男同士じゃないか」
「まあそうなんだけどさぁ!」
海斗くんは腹筋を揺らしてしばらく笑った後、自分が励んできた努力について語りだした。
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