81 / 88

第15話 - 2

「ルイ君あそこ(きた)えたことある?」 え、あそこを?「(きた)える」? ふざけているのかと思えば、海斗(かいと)くんはいたって大真面目だ。言ってる事と表情とのミスマッチが可笑しくて笑い出しそう。ボクは必至で(こら)えた。 「いや、ない、かな」 「ああ、そうなんだ…… イヤ俺だってそう安易(あんい)に相談してるわけじゃないんだぜ。ルイ君今笑いそうになってたろ? 笑いたかったら笑ってもイイけどさ。 俺も今までいろいろ試してみたわけだよ。その結果、もう自分でやるのは限界だと(さと)ったからこそ、こうしてここに来たのだよ」 「聞いていいかな。色々って何試したの?」 たずねると海斗くんはしばらく左の天井を見上げ、大きく息をついた。 「まあ、色々っつったら色々だよ。 ルイ君だって聞いたことくらいあるだろ? 熱めのお湯と冷たい水を交互にかけるとか、ペットボトルでたたくとか。風呂のカラダ洗うタオルでゴシゴシするとか」 ボクは思わず吹き出した。 「へ、へえ! すごいね!」 「えールイ君はホントに知らないの? 中学の時とか男子はそういう話するのがフツーだろ?」 「そんな話聞いた事、ん? あったかなぁ? でも聞いてもやらないよ! 海斗くんやったの?」 「うん、まぁね。」 サラッと答える海斗くん。しかもどこか誇らしげ。 「ウ……ごめんチョット待って」 ボクはうつむいて堪えたが、つい笑いが止まらなくなった。 海斗くんも一緒に笑い出す。空気がほぐれ、海斗くんが饒舌になる。 「いやぁそんなの普通だぜ? もっとスゴイのもあるんだから」 「え、どんなの?」 「軽石とかな!」 「軽石でこするの? うわぁーソレ痛そう! まさかソレもやったの?」 「さすがに軽石は無理だった」 そしてニヤニヤしながら続けた。 「でもやったヤツがいたんだよ! クラスの男子がその話で盛り上がった次の日から1週間くらい学校来なかったんだよね。まさかってみんなで言ってたンけどさぁ、こないだ同窓会で本人が言ったんだ。 やっぱやったんだって。 そうしたらさ、ビックリするほど腫れ上がって痛すぎて『学校行けねー』ってなって、親には『腹痛てぇ』って言って、病院行ったんだって。でも近くの病院だとバレるかもってンで、自力で電車で遠くの病院まで行ったんだってさ。その道中も痛くて痛くて忘れられないんだと! バカっぽいだろ! さすがにそこまでやらねぇだろフツー。考えたら分かるじゃん、軽石は絶対ヤバいよ。ってか逆にそいつスゴくない? スゲーよマジで。もうコレ一種の武勇伝だろ」 2人して爆笑してしまった。 「そこまではやらなかったけどさ、俺は俺なりに努力したワケ。安易な気持ちで先生に頼ろうってンじゃないの」 「そうか、海斗くんもいろいろ大変だったんだね」 「大変っていうか…… まあそうかな」 「なんでそこまでして強くしたいの? すごい早漏なのか?」 「どうだろ。それは分からないけど…… なんていうか、男のロマンだよ」 「男のロマン!」 海斗くんがこんなヤツだったとは。ボクはしばらく腹の底で笑いがおさまらなかった。 「そんなに笑うなよー 恥ずかしくなっちゃうだろ!」 「ご、ごめん!! もうちょっとだけ笑わせて、おさまらない……! あ。で、予約ね? 先生のカウンセリングね。いつにする?」

ともだちにシェアしよう!