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第15話 - 6
青海ホテルはいつも俺らが止まっている安宿と比べるとずっとちゃんとしたホテルだ。台風のスウェルを狙ったサーファーでそっちの予約がとれなかったのだ。いつもンとこよりは高いけど、設備の割には安いんじゃねえかな。5千円くらいで泊まって温泉に入れて晩飯と朝飯もついてるんだ。それに、まだ使ったことなかったけど、宿泊客は貸切風呂も無料で使えるらしい。
チェックイン時刻の3時よりは2時間も早いけど、台風のせいでキャンセルだらけらしく、すぐに部屋に入れてくれた。
その頃には吹く風もビュービュー音をたてるくらいになっていて、ホテル周辺の松の木なんかも枝や葉っぱのしなり具合がものすごいことになっていた。早く来て正解だ。
とはいえ、部屋に入ってもすることがねぇ。
途中コンビニで買った菓子やジュースを出して、とりあえずテレビつけて寝転がってスマホいじったり、ちょっとしゃべったり。
部屋はなんてことない、普通の宿だ。
ただ、キャンセル入ったからいい部屋にしてくれたらしく、部屋にも風呂がついている。まあ部屋の風呂なんか入らないけどね。大浴場の温泉の方がいいに決まってる。
ちょっとゴロゴロしてから風呂に行こうということになった。
風呂に入ってしゃべってるときに、貸切風呂の話になった。
どうせやることないんだし、夕飯食った後にでも行ってみようってことになった。
海に来る時用に洗面セットをポーチに入れてる。洗い場でシャンプー出そうとしてハッと思い出した。蘆屋先生に作ってもらった薬も入れて来たんだった。
「そういやさ、俺こないだルイ君のバイト先行ってきたんだよ」
「へえ、そうなの」
「うん。でさぁ、なんかスゲー薬つくってもらったの。このポーチに入れて来たの今思い出した。見る? これこれ」
「へえ、なんの薬?」
「アハ、聞きたいか~? 実はこれはなあ、なんと、アソコに効く薬なのだよ!」
「アソコ? へえ! そんなの売ってんだ」
「いや、売ってるっつうか、作ってもらったの、俺用に! あの先生に! すごくない?」
俺は得意げにあのドレッシングみたいな容器を見せびらかした。
「へええ。もう使ったの?」
「いや、まだ」
「じゃすごいかどうか、まだ分からないじゃん」
「んん、まあそうかな……」
「使ってみれば」
「うん、そうだな。ってか、今?」
「アハハハハ まあ今でもいいけど。便所行ってやれよ」
「あ、ああそっか、それもそうだな。じゃあ後で試してみるか。部屋にも風呂ついてたしな」
そんなわけで、風呂上がって、食堂で夕飯食って、部屋に戻ると、俺はさっそくボトルを持って部屋のユニットバスへ。
そこで思い出したけど、俺、ひとりでやる分には別に不自由してないんだよな。
でもせっかくだから試してみるか。
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