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雪が音を吸い取る
ふわふわ、ぐるぐると視界が回る。慌ててイスに座り込み、目を閉じてやり過ごす。浮遊感と吐き気に、ため息を吐く。数分くらい我慢していれば治まる。
あの日以来、食べることも、寝ることも忘れて、仕事に励んだが、耳鳴りと頭痛にも閉口していて、処方薬の量と種類が増えていく。仕事をする気をそいでいく。
先輩の指導の下で仕事を覚えているが、凡ミス続きで、叱られてばかり。
何を見ても、何を考えても、啓慈のことばかり。
病院で処方された薬とサプリメントのおかげで、かろうじて生きている死体のように青白く生気のない顔でふらふらと仕事をしていた。
窓の外をしょうしょうと降る雪は、やむことを知らず、音を吸い取りながら地面を白く染め上げていく。
ため息を吐きながら、雪をにらむ。雪さえ降っていなければ、今すぐにでも啓慈を探しに行きたい。その思いだけ気が触れそうなほど雪だるまのように膨れ上がっていく。
ただただ寒くて、閉じ込められた気がして気が参りそうだ。
そのくらい啓慈を失ったショックは大きかった。
静かすぎる街、静かすぎるオフィス。
『真白君、資料お願いねって言ったけどできたかな? わからないところある?』
手が止まっていたせいで、先輩が顔を覗き込み付箋を渡してきた。
「資料って?」
『A社のプレゼン資料のことだよ。覚えることがたくさんで大変だと思うけど、踏ん張りどころだよ。わからないことがあったら、なんでも聞いて?』
なんにも聞こえなかったから、仕事の指示がわからなかった。
「何時までですか? すぐ終わらせますね」
『真白、耳鼻科に行ってこい。上司命令』
ただならぬ気配を感じた先輩が厳しい顔でそう言った。
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