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第11章
罪人のように切り落とされたリスの頭の付け根から血溜まりが出来ていく。
風の魔法か?斬られる刹那、焚き火が揺らいでいた。
それにしても、なぜーーー
恐れと戸惑いに私の手は震えている。なぜこんな事をしたのか、とやっとの思いで聞けば、ソラスは美しい笑みを保ったまま、苦しむ時間を減らしてやったのだと答えた。
私は雷に打たれた。
いや、これは、私の想定不足だ。永く人間社会に身を窶していたせいか、"隣人達"がどのような者達なのかすっかり失念していたのだ。
彼らは子どものように無垢で、親切で、無邪気な残忍さを持つ者達なのだということを。
人間とは価値観がまったく異なる者達だということを。
そして、哀しくなった。
誰も彼に、無闇に命を奪ってはいけないという至極当たり前の事を教えてやらなかったのだ。
『ソラス、おいで』
ソラスは私の隣に座った。そして、私は彼の頬を打った。ソラスは何が起こったか分からないといった風に、顔をゆっくりとこちらに向ける。
『悪戯に命を奪うのはいけないことだよ。
人間の世界で暮らしたいのなら尚のことだ』
目を真っ直ぐに見ながら言う。ソラスは目を見開いたまま、しかし素直に頷いた。
炎の前で膝を抱えるソラスはどこか落ち込んでいるように見える。目の前にはまだリスの死骸が転がっているというのに、胸の奥が甘く疼いた。
ソラスに手を伸ばし、頭を撫でる。
『嫌いになったわけではないよ、私は君の事が』
言い掛けて、私はみるみるうちに赤面していった。
気づいてしまったのだ。ソラスに抱いていた想いに名前がついた瞬間だった。相手は見目麗しいとは言え青年の姿をしているというのに。
ソラスの、澄んだエメラルドの瞳が向けられる。心臓が早鐘のように鳴っている。
喉の奥が熱くなり、言葉はそこで焦げ付いて出てこない。
ソラスは小動物のように顔をパッと森の方に向け、輪郭を揺らめかせる。そして消えた。私もソラスと同じ方向を向くと、がさり、と茂みを揺らし、侍女が現れた。
「どうしたのですか、こんな夜更けに」
私はなるべく平静を装った。侍女は蒼白な顔をして、本当に会ったのか、と聞いてきた。
「ええ、先程までここに」
私はソラスが座っていた処を指す。
『ソラス、出ておいで』
森に向かって話しかけるも、姿が見えないどころか返答すらない。彼女とは面識があるはずなのに。
「こんなところに・・・!」
侍女は歯を剥き出しにし怒りの形相を作った。ソラスのいた方へ向かって足音荒く歩いていく。
「何をしていたの!?早くお行きなさい!
行っておしまい!」
怒鳴りながら地面に落ちている石を手当たり次第拾って方々に投げる。
「やめてください、どうしたというのですか」
侍女の前に立ち肩を掴む。途端に彼女の顔に怯えが広がった。
侍女は、何か言っていたか、と顔を漂白させる。
私は首を振る。
侍女は安堵したように息を吐き、私に背を向けた。
「ソラスを、元来た場所に還すつもりはありませんか」
侍女は振り向く。そんな事が出来るのか、と。
「彼は"かの国"への入り口を知っています。還ろうと思えばいつでも還れたはず」
それをしなかったのは、貴女が彼にとって母のような者だったからではないか、と言えば、侍女は顔を覆い膝から崩れ落ちた。
私は思わず立ち上がり、彼女に近づく。
「私があの"生き物"の世話をしていたのは、ただ哀れだったからよ!!!」
彼女の言葉は私をたじろかせた。
「あれは私の罪そのものなのです。あれは私そのものなのです」
侍女は地面に伏し叩きつけるように叫ぶ。
どういうことなのか聞けば、侍女は堰を切ったように話し始めた。
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