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第14章

ソラスはあの泉の場所に来た。 身体に掛けただけのローブを肩から下す。 白く引き締まった肢体が露わになる。胸板は薄く、股間の髪よりも白い叢毛の中には男性の証が埋もれていた。 それなのに、月明かりに照らされる身体は性を感じさせず、まるでソラス自身が一つの性であるかのような神性を秘めていた。 背を向けたまま、ソラスは泉の中に入っていく。その真白な身体は欲望の捌け口にされていたにも関わらず、何人も立ち入ったことのない雪原を思わせた。清らな白さに、新雪を踏み荒らしたくなるような背徳的な感情に駆られる。 村長もこのような衝動に襲われたのだろうかと思うと、私は自身が急に悍ましい生き物になってしまった気がしてきた。 『 』 彼の言葉で、私もまた血糊が付いている事が分かった。邪な感情も早く落としたくなり、私も服を脱ぎ、身震いする程冷たい水の中に入った。鱗は腹を覆い尽くし、鼠蹊部にまで達しようとしていた。ソラスに近づくと、身体を温めるように身を寄せ抱きしめられた。皮膚がすれ合うだけで甘い痺れが走り、欲情が煽られ燃え上がりそうになる。 私は少し身体を離して、向き合ったまま赤い汚れを手で洗い流してやった。 彼の身体は小さく震えていた。村長には幼い頃から行為を強要され、何をされているか分からなかったがとても嫌な感じがした、と語った。私は唾を飲み込み、だから、村長を殺したのかと聞けば、私が死んでしまったかと思った、と零していた。 それが理由かと確認すれば、怒られた子どものように、ごめんなさい、と小さく謝ってきた。 胸が酷く痛んだ。 この村の人間たちは、本当に何も与えてやらなかったのか。性の知識も、人を殺してはいけないという至極当たり前の倫理観さえ。ただ高級娼婦のように飾り立て、死なないように飼い慣らしながら。 彼が謝ったのは、村長を殺めてしまったことではなく、命を奪ってはいけないという私の言いつけを破ったからだ。 『いいかい、これからは、だれも殺めてはいけないよ』 私は子どもに言い聞かせるように、彼に囁いた。わかった、と成熟した笑みが返ってくる。 もう一つ、彼に教えなければならないことがある。 私は花弁のような唇にそっと自身のそれを重ねる。ソラスは白い羽毛のような睫毛を瞬かせた。 『これはね、本来は愛し合う行為なんだよ』 もう一度、彼に口付けた。何度か唇を食み、舌先でそこに触れる。細い腰が小さな波を立て後ずさっていた。 口付けはされたことが無かったのだろうか。身体だけが目当てだったのかと思うと憤りそうだ。 何度も唇を重ねていると、ソラスはおずおずと唇の隙間を開けた。彼の口内は果物を食べた後のように瑞々しく甘い。 私の舌が動くたび、ソラスの肩が小さく跳ねていた。唇が離れる度必死に息を吸っている。 今度は頸の後ろを手で支え、蝶の翅のような複雑な模様を描く耳に舌を這わせる。鶫のような可愛らしい声が鼓膜にかすれて、下腹部に熱が集まってくる。 私は村長と同じことをソラスにしようとしている。彼が、知識はなくとも恐れていた行為を。ここから先は踏み込んではいけない。 そう何度も自身に言い聞かせるが、私の唇は 野ばらのように淡く色づく胸の先を食んでいた。彼の背中が反り返る。 私の肩にソラスの爪が食い込んだ。痛みに少しだけ我に返り、身体を離して彼の顔を見た。 緑の瞳は濡れていた。 なんと愚かなことをしてしまったのだろう。 私もまた己の欲望でソラスをーーー 後ずさる私の腕を、素早くソラスが引き留めた。 彼の唇が開く。あの魔法だろうか。私は彼に斬りつけられるのを覚悟した。 『 』 ソラスの口から舞い降りた言の葉は、私の意に反したものだった。 もう、どこにも行かないで欲しいと。 『 レグ、 』 愛している、とその言葉が耳に触れた途端、私は滂沱していた。 オパールのように虹色を帯びた白い髪を掻き分け、揚羽蝶の羽を思わせる尖った耳を親指の腹で擦る。ソラスはくすぐったそうに肩をすくめた。エメラルドの瞳の中の私は涙を流している。 ソラスの髪を撫でながら、私は彼がくれた言葉と同じ言葉を返した。ソラスのどこか無機質だったエメラルドの瞳は飴菓子のように甘くなる。 どちらとも無く私たちは深く接吻を交わした。 楽器の弦を弾くように突起を指で摘めば、ソラスは白い喉を鳴らした。指先で摘み、潰し、柔く擦れば、漏れた声が連なり甘い旋律となる。先端が熟れて膨らむまで続ければ、彼の中心が蜜を零していた。 私の欲望を纏った指先に触れられてもなお、彼の身体の白さは侵される事なく、アーモンドの花の薄紅色に染まるばかりだ。 皮膚に赤い跡を咲かせながら私は双丘の谷間に指を這わせた。 "隣人達"には同性同士で交わる種もいる為、知識としてはやり方を知っていた。しかし、そこから快楽を引き出す方法は知らない。 人間の性交を体験するために女を買った事もあるが、上半身は鱗がある為下履きのみを下ろしての行為だった。 私は極めて慎重に、硬く閉ざした蕾にそっと触れる。ソラスは身構え身体を固くした。 痛むのかと聞けば、首を振る。しかし、ここから先の行為を思い出すと痛む気がする、と。 酷い。本当に酷い。手酷く扱われていたのが容易に想像できる。怒りに身体が震えるとはこのことか。彼にとって、身体を開くのは拷問に等しい行為だったのだろう。 それでも私に身を委ね、触れることを赦してくれている。 愛は誰の目にも見えない。人間にも、隣人達にも、エルフにさえも。 だが、これを信頼や愛と呼ばずになんと言うのか。 愛おしさが込み上げ、私はソラスを強く抱きしめた。

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