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◇
やけに寝苦しくて目が覚めた。息がしづらい。しかも身体に何かが、のしかかっているような……。
寝ぼけ眼を持ち上げて原因がわかった。何を間違えてるのか俺を抱き枕にして寝っこけている昨夜の男。ちなみに場所は当然俺のベッドだ。
あの後、蕎麦を食い終わって店で寝始めたのを叩き起こし、帰り道も真っ直ぐに歩かねえから肩を貸しで滑って転んで散々な目に会い、やっと離れられると思ったらうちに来た。
鍵屋呼んで開けてもらえと言っても「やけんこのまま待っとったら凍死するやん?」という言い訳に丸め込まれまんまと泊まられてしまった。
泊まったっつーか玄関入った瞬間勝手に寝落ちしたのをベッドまで運んでやったんだけどな!俺が!善意で!
「おっも…」
何が悲しくて男とくっ付いて寝てるんだ。
もぞもぞ身じろぎすると、こいつは無意識ながら抱きしめなおそうとしてくる。
随分安らかな顔をしてやがってむかついたので頬を少しつねってやった。
俺は絡まってくる腕から抜け出し、シャワーを浴びに行った。
一通り済ましてから、さすがに他人がいるのにパンイチはまずいかと思い脱衣所でスウェットの下だけ履いて戻ってくると男も起きていた。
ベッドの上で上体を起こし、しかし魂が抜けたように呆然と手元のあたりを見つめている。俺が「あの」と声をかけるとこっちを見て、そして完全にフリーズした。
「……」
「えーと。おはようございます?」
「っ、あ……。あ。あの。おれ、たち?……な…何か、しました?」
「へ?」
「何か」という一瞬の含み。
俺は風呂上がりで上裸。この人の服装は、まあ寝てた程度のものとはいえ乱れている。つまりどういうことを考えているのかさすがに察した。
そりゃ泥酔して記憶は薄いか無いんだろうとは考えていた。考えていた、が、なぜか、イラっとした。
「……そっちが誘ってきたんですよ?」
完全な悪ノリ。っていうか、困らせてやりたくなった。それっぽい雰囲気を醸し、俺はベッドに腰掛ける。
二人分の重さで軋んだ音と近付いた距離に男はあからさまに動揺した。
ぼさぼさに寝ぐせの付いた髪とだらしない服装で警戒してるのがアンバランスで面白い。
こいつ、ほんとに深夜のと同じ奴なのか?
「あなたがどこのどなたかは知らないですけど。深夜に突然押しかけてきて、うどん食いに連れ出されて、結局俺んち来て。……抱いてくれって言ったから抱いてやったまでですよ」
顔を合わせて嘘をぺらぺらと並べ立ててみる。前半は本当だから言葉には詰まらなかった。
「……さびしかねえ、って言ったから」
「っ~!」
思い出した言葉を呟くと、男は泣きそうな顔になった、
途端にベッドから立ち上がって、そのまますぐそばのコートとバッグを引っ掴んで何も言わずに家から出て行った。
しかしスーツの上着と手袋を忘れている。抜けてんなあ。
そっちが一方的に押しかけてきたくせに、なんだよ。災害みたいな奴。
……別に、どうでもいいけどさ。
これでようやくいつも通り。ぽつんと部屋に一人きり。
俺はなんとはなしにカーテンの隙間から外を見た。意外にもまだ昨夜の雪は降り続いていて、景色をうっすら白く染め上げ始めていた。
寒いのにも関わらず俺は窓を開けて、窓枠に積もったそれを掴んだ。
刺すような冷たい雪は体温で溶けていく。
さっさとやまないかな。この雪も、あいつも、この変な気持ちも、一緒に溶けて消えてしまえばいい。
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