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第3話

 オーバーを着込んでいるせいか大きな身体が余計大きく見えた。男は、ジュリアンの持っていた木の蔓で編んだ籠に手をかけて、低音で言った。 「いくらだ?」 ジュリアンは怯えて答えられなかった。ジュリアンが何か言おうと、ただ唇を小さく震わせていると、答えを待ちきれないように、男は懐から使い込んだ革の札入れを取り出して大きな札をジュリアンの胸に押し付けた。ジュリアンは札が吹雪で舞っていかないように慌てて手で押さえた。  ジュリアンは、首から紐で吊るした財布を引っ張り上げて手繰り寄せ、札を急いで財布にしまった。裸の平らな胸と下着の間に再び財布を滑りこませると、ほんの一瞬外気に触れさせただけなのに、財布は、ひんやりと冷えてジュリアンの身体をびくっとさせた。  財布の紐と、胸の下着の乱れをなおそうと自分の胸元に鼻を突っ込むと、何週間もお風呂に入っていない身体と洗っていない下着の、蒸れたような汗と自分の体臭の入り混じった臭いがむっとした。ジュリアンは、頭巾で蒸れた頭の痒みを不快に思いながらも、放たれた自分の臭気にどことなく安心感を覚えた。獣の寝ぐらのような臭い。悲しく気怠く、やるせない、諦めの中にある、かすかな希望と情熱。希望と情熱の残り火。熱い炎。忘れかけていた情熱。甘い情熱。

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