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第16話
ジュリアン校長が講演会をすると、大勢の人がつめかけた。美貌の紳士を一目みようということが目的の、ご婦人方も多かった。しかし、ジュリアンはとても真面目だったので、浮いた話し一つ作ることはなかった。こうして、恋人も恋愛も考える暇もなく月日は過ぎた。
「校長、いくら教会付属学校とはいえ、校長は神父というわけではないのだから、結婚なさってはいかがですか?」
と勧めるものも多かった。けれどジュリアンは、子どもの頃の経験が尾をひいていたので、誰かと性行為をする気持ちには、なれなかった。教会付属学校だからという理由で、修道士のごとく、清らかな身でいるほうが、心が安らかだ、と思った。自分の子どもが欲しくないわけではないが、たくさんの子どもたちに囲まれて、みんながジュリアンを父親のように母親のように慕ってくれるので、ジュリアンは満たされていた。
それでも、ほとんどの寄宿学校の生徒が家に帰る長い休暇には、ぽつぽつと残っている生徒や、孤児院の生徒と過ごしながらも、空いた時間には、ふと寂しさを覚えることもあった。
ある時、一通の手紙が舞い込んだ。多額の遺産相続の話しだった。父の遺産が叔父にいっていたが、叔父が亡くなって遺言で、ジュリアンに、とあったらしい。ジュリアンは、住む場所は、質素な教会の教員宿舎の小さな部屋で満足していたし、年金も保証されていたので、遺産はいらないと返事をしようとした。
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