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第17話

 しかし、教会の神父である元校長が、 「若いのだから、まだ、家族を持つかもわからないし、受け取っておきなさい」 と言ってくれたので、寄付することもできるし、と思い直して、受け取ることにした。  遺産相続の書類を作りに、事務弁護士がジュリアンの宿舎にやってきた。個室は狭かったので、宿舎の応接室を使わせてもらった。ラウンジスーツを着て髪を撫でつけた三十代くらいの男が、書類鞄を持ってやってきた。昼の礼装のモーニングコートを着たジュリアンは書類にサインをした。  その手元を、じっと見つめていた弁護士が、思いきったように尋ねた。 「ジュリアン先生、私のことを覚えていませんか?」 「どちら様でしょう?」 ジュリアンは、知り合いの顔、後援者の顔、教え子の顔を思い浮かべた。 「ヨーンです」 ヨーン! ジュリアンの脳裏に少年の日が、まざまざと蘇り浮かんだ。路地を入った所にあった、ヨーンの家。その子ども部屋でした幼い行為。それがヨーンの親に見つかって裸で通りに追い出された。苦い思い出。ジュリアンの顔が、かあっと熱くなった。  ひょっとして、あの時のことを蒸し返されて、脅されるのかも? お金……それはいいとして、せっかく得た居場所、職場や地位を奪われるかも。ジュリアンの心臓が早鐘のように打った。

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