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第18話
立ち上がり、呆然として立ち尽くすジュリアンを見て、ヨーンも立ち上がりジュリアンに歩み寄ってきて言った。
「やっぱり、貴方は、あのジュリアンだったんですね?」
ヨーンは、にっこり笑ってジュリアンの手を取った。
「僕は、あのジュリアンのことを、忘れたことはなかった」
ヨーンは、ジュリアンの手をかたく握りしめた。
「あの時は、申し訳なかった。母が、逆上してしまって」
ヨーンは、悲しそうな顔をした。
「ずっと、そのことを、謝りたかったんです」
「謝る?」
「身寄りのないジュリアンを追い出したりして。しかも裸のまま、表に放り出すだなんてそんな虐待。本当に申し訳なかった。母は、ひどいことをしたと悔いている。僕からも謝ります」
ヨーンは、ジュリアンの手を取ったまま、床に膝をついて謝罪した。
「あのあと、ジュリアンが、どんなつらい思いをしたかと思うと……。到底僕を、僕らを許せないと思うけれども」
ジュリアンの胸に、むらむらした思いが湧いてきた。
「そうだね……あの後のひどい生活を思うと、到底、君を許す気にはなれない」
ジュリアンが口にした言葉は、とても聖職者とは思えなかった。だが、ジュリアンは俗人であって、聖職者ではなかった。
「……そう、ですよね」
ヨーンは、ジュリアンの返事を聞いて、悲しそうにうなだれた。
「僕は、好きだった。ジュリアンのことが、好きでした。でも、ジュリアンにとっては、貴方にとっては、あの時のことも、何もかもが、みんな、悲しい思い出なんですね?」
ヨーンがジュリアンの顔を見上げて聞いた。まっすぐな眼差しが、まぶしかった。
「あの時?」
ジュリアンは聞いた。
「うん。子ども部屋でした、あのこと」
そう答えながら、ヨーンの顔が真っ赤になった。立派な男になった今でも、少年の日に間近で睦みあった時に見た、長いまつ毛、ぱっちりした目、小さな唇は、そのままだった。
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