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第19話
「あのこと……」
ヨーンの口から幼き日の過ち、二人の性交について言及されて、三十代の若き校長の顔も熱くなった。いつもは、業務に徹していて、生徒から教師、後援者たちまで、誰にでも感じのいい、大人らしいジュリアンだったが、ヨーンの前で、急に、めちゃくちゃだった子ども時代のあの頃のジュリアンにかえる思いがした。
「あれ以来……恋は、していない」
ジュリアンは苦しい思いで打ち明けた。
「恋?」
ヨーンが、聞きとがめた。
「あ、いや、あの時のことも恋とはいえなかったかもしれない。ただ行為をしただけで。でも、私は、ただ、君に、気持ちいいことをしてあげようと思って。それが好きな人にすることだと、間違って教えられていたから……。もちろん今では、それが間違っていたと知っているし、生徒にもそんなことは、教えていない……」
ジュリアンの胸は苦しかった。自分の過去のあやまちを相手に告白することは苦しかった。神様を相手に告白するのとは違い、それが相手に許されるとは限らなかったから。
「もし生徒にいかがわしい嘘を教えていたら、ぶん殴って引っ立てて財産没収してやるよ」
ヨーンは、いたずらっ子のように乱暴な言葉で言って笑った。
「そんなこと教えたりしないよ……時々、ぐらぐらするけど」
ジュリアンは、普段の、年よりもずっと大人びて落ち着いた校長の態度を脱ぎ捨てて、おどおどと応えた。ヨーンは明るく笑いとばしてくれたけれど、ジュリアンは、ヨーンのように明るく笑ったりなどは、できなかった。
「え?」
ヨーンの笑顔がさめて、怪訝そうに、眉をひそめた。
「どういうこと?」
「あ、いや、なんでもない」
ヨーンの不審そうな表情を見て、ジュリアンは不用意な打ち明け話をしかけてしまったことを後悔した。
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