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第21話
ジュリアンは一瞬勘違いした。自分が今、ヨーンを愛しているのかと聞かれたのかと。そして、その思い違いを恥じた。何を意識しているんだろう。あれは、昔のことじゃないか。子どものときの間違いだ。何を自分は……。
「……あ、うん。そう、あの二人の少年たちは、愛し合っている」
ジュリアンは、そう答えて、手を引っ込めようとした。だが、ヨーンは、ジュリアンの手を強く握って、放さなかった。まるで神の御手のように。ジュリアンの頬は熱くなった。
ジュリアンは、ぴょこぴょこ見える窓の外の茶色い頭を気にしながら、言った。
「もし、よかったら、私室の方に来てもらえないか? ここだと人目があるから」
「人目?」
ヨーンが聞きとがめた。
「あ、いや、何もいかがわしい行為に及ぶとかではないけれど」
ジュリアンは慌てて言い直した。
「いいですよ、それでも」
ヨーンが答えた。
「え?」
今度はジュリアンが聞きとがめる番だった。が、
「あ、私室に来てくれるということか」
とすぐに気づいて恥ずかしくなった。ほんとに意識しすぎだ。何を勘違いしているんだろう。ジュリアンは自分を責めた。
「では……」
ジュリアンはヨーンの手を優しく振りほどいて、応接室のドアに向かって歩き出すと、ヨーンが背後で言った。
「それもそうだけれど……いかがわしい行為を僕にしてもいいよ、ということ」
「え?」
ドアノブに手をかけていたジュリアンは、ヨーンを振り返った。
「もしそれが許されればだけど」
ヨーンは遠慮がちな表情で言った。
「……」
ジュリアンは、答えず、
「どうぞ」
とドアを開けてヨーンを促した。ドアを押さえているジュリアンの前を、ヨーンが通った。無防備な首筋。淡い色の髪の匂い。ドアが閉まった。ジュリアンは鍵をしめた。振り返るのが怖かった。教職員用の棟は静けさに包まれていた。胸の高鳴りだけが聞こえる。
ジュリアンが振り返ると、そこにヨーンの唇があった。ジュリアンは、耐え切れず、唇を重ねた。
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