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第25話

 そう、打ち勝ったはずだった。なのに、今の、この体たらくは、どうしたことだろう? 封印したはずの、一生封印しようと決意したはずの、感情の扉が、欲望の壁が、もろくも崩れ去っていくのを感じた。あとからあとから湧いてくる情熱の火。恐ろしい罪の業火。燃え盛る欲望の火。おお、神よ、私を誘惑に陥らせず、悪からお救いください。 「もう、我慢できない……」 ヨーンが、言葉をもらした。その、あえかな呟きは、一本のマッチの火だった。ジュリアンの欲望に燃え移った火は、ごうごうと燃え盛り、ジュリアンの心の奥底に、長い間、眠らせて、おしこめて置いた感情と欲望の室の扉を解き放ちいっきに焼き落とした。  ジュリアンは、机に歩み寄り、引き出しを開けた。震える指先で、引き出しからペトロリウム・ジェリーの瓶を取り出した。白墨で荒れた手が、書き物の時に紙に引っかかるのを防ぐためのものだった。ジュリアンは透明な固まったペトロリウムを、慣れた手つきでヘラで削って手のひらにのせ、瓶の蓋をしめた。  体温で液状になった油を、ヨーンの性器に塗りつけた。 「あっ……」 ヨーンは、気持ち良さげな声を出した。ジュリアンは、胸ポケットのハンカチを取って手を拭い、ヨーンに背を向けて、机に手をついた。 「ジュリアン、いいの?」 ヨーンのささやき声も震えていた。ジュリアンの目に窓辺の薔薇の芽が見えた。ヨーンの固い芽が、ジュリアンの肛門の入り口に押し当てられた。 「んっ……」 ジュリアンは小さく呻いた。 「無理なんじゃないかな? ずっとしてないんでしょう? いきなりは、ちょっと……狭くて」 ヨーンの困ったような声がつぶやいた。

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