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第27話
「ちょっと」
ジュリアンは答えた。
「大丈夫ですよ。鍵はしまっているし。窓の外にも誰もいない」
ヨーンはジュリアンを安心させるように言った。
「薔薇が植えてあるから人は近寄れない」
ジュリアンも自分の恐れをなだめようと、そう言った。
「ああ、薔薇。あの日の窓辺にも、薔薇が咲いていましたね」
ヨーンの言葉で、ジュリアンの脳裏に、子ども部屋の窓辺に揺れていた赤い薔薇が鮮やかに蘇った。忘れていた情熱の火。そうだった、それで自分は窓辺に薔薇を植えたのか。無意識に自分は、あの時のことを。忘れようとしても忘れられない愛の記憶がジュリアンの情熱の火を呼び覚ました。あの時、確かに、ヨーンのことを愛していたのだ。前後不覚の欲望に目が眩みながらも、確かに。
「少し、入りました。痛いですか?」
ヨーンが尋ねた。
「少し」
ジュリアンは答えた。
「僕も……。もうちょっと力を抜いてくれないかな?」
「無理だ、これ以上」
ジュリアンは身体を硬直させて机に手をついたまま答えた。
「ええと、罪悪感を感じているんじゃないですか? こういったところに長く勤めているから。でも、今は、立場を離れて、僕と楽しんで」
「そうしたいのだけど、うまくできない」
ジュリアンは苦渋した。
「大丈夫ですよ。あんなに幼い時だって、貴方は、無知な少年の僕を上手く誘導してくれたじゃないですか」
ヨーンはジュリアンを励ますように言ったが、
「あの時の自分は、間違いだったから」
とジュリアンは応えた。
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