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第2話
「なんで風花が謝んの? 遅れたの俺なのに」
どれだけここで待っていたのか、ニット帽に雪が積もっているからそれを払いながら問いかけた。
あ、待て。何気なくやったことだけど、すごく自然と近づいてしまった。わざとじゃない分少し照れる。
「この雪、俺のせいだから」
「……風花のせい?」
近くで見ると本当に神様に丁寧に作られたんだなってくらい綺麗な顔をしているから、それに見惚れていたせいで返事が一瞬遅れた。
笑って言ってくれれば冗談だと思えるけど、その顔は愁いを帯びたまま。
「俺、雪男なんだ」
真剣に、重大な告白をするようなテンションで告げられたそれに、どうリアクションを取ったものかわからずまばたきを繰り返してしまう。
ゆきおとこ。ゆきだるまではなく。
「雪男……? それって、ビッグフット的な?」
「そうじゃなくて、雨男とか晴れ男みたいな」
「雪が降るから雪男?」
こくん、と頷く風花はとても真面目な顔をしているけれど、仕草が可愛くてにやけそうになる。
でも、そうか。雨が降るから雨男だし晴れるなら晴れ男だから、雪が降るなら雪男か。今まで聞いたことはないけれど、ニュアンスとしてはわかる。そして自分がそうだと、風花は言うわけで。
「俺昔から、大事な日とか楽しみにしてる日に雪が降っちゃって。しかも楽しみにすればするほど大雪になって、いつも台無しになっちゃうんだ」
しょんぼりとした顔でごめんともう一度謝られて、どう答えたものか迷った。
確かに雪は降っているけれど、そもそも雨男とかも別に信じてはいないし、そんな都合よく天気は変わったりしないだろう。
ただ、そんな不確かなことよりも、もっと大事で確かなことがある。
「……つまり、今日俺と出かけるの、めちゃくちゃ楽しみにしててくれたってこと?」
楽しみな日に雪が降ると認識している風花が、今日の日をそう判断するならば。こんなに雪が降るほど俺とのデートを楽しみにしていると言ってくれたようなものじゃないだろうか。
「なにそれめちゃくちゃ可愛い! 嬉しいよ風花! 俺もすっげー楽しみにしてた」
ここに辿り着くまでの大変さが全部報われた。それどころじゃない。しょっぱなからものすごい告白をもらった。
この大量に降る雪が風花の気持ちの表れなのだとしたら、なんて嬉しい寒さだろう。無理やりにでもここまで来た甲斐がありすぎた。
「……え、嫌わないの?」
「なんで? そもそも誘ったの俺だし、風花あんまり乗り気じゃなかったから迷惑かなって思ってたんだけど。そんなに楽しみにしててくれたならめちゃくちゃ嬉しいに決まってるじゃん」
「篠目……」
俺が喜んでいるのを不思議そうに見る風花は、一体どんなリアクションをされると思っていたのか。ものすごく意外そうな顔をされて、こっちも意外だ。
風花が今日のデートを楽しみにしていてくれたという事実に、嬉しい以外のなにがあるのか。
「お、っと。こんなとこで話してたら風邪引くな。とりあえず中入ろう。ていうかなんかあったかいもん買おう。ってその前にチケットか」
「……ん」
なぜだか俺の顔を見たまま立ち尽くす風花の体を反転させて、忘れていた自らの雪も払ってから中へと押しやる。
映画館の中は当たり前だけどがらんとしていて、ほとんど貸し切り状態。一応やってはいるけれど人がいないからか全体的に暇そうだ。
そんな中で温かいもの中心に食料を調達して、目的の映画へ。
元々風花が見たいと言っていたものを選んだのだけど、映画好きの風花が選ぶだけあってとても面白く、しかも周りに人がいない分二人占めしたスクリーンは迫力がすごすぎて集中して見てしまったのが少し悔やまれるところ。
本来なら手すりに乗った手に手を重ねたり寄り添ってみたり、そういうイベントをこなそうと思っていたのに、映画にのめり込みすぎてすっかり忘れていた。
「あー面白かった」
それでも風花の笑顔を見て、余計なことをしないで良かったとも思った。好きな映画を見ているのを邪魔して悪印象を与えちゃ本末転倒だし。
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