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第3話
「あれすごかったな。例のセリフ。てっきりギャグだと思ってた」
「まさかあんな使われ方すると思わなかったよね。あと、最初の方にでてきたあれが伏線になってるとはなぁ」
楽しそうに感想を語る風花は、相づちを打つ俺を見て、小さく笑って肩をすくめた。
「こういうの、映画の後に話してみたかったんだよね。ありがとう、篠目。今日誘ってくれて」
「いやむしろ俺は二人で出かけるきっかけ作ってくれてありがとうって感じなんだけど」
あんまりにも嬉しそうに微笑むから、恥ずかしくなって風花から視線を逸らす。
風花が映画好きだったおかげで映画館デートのハードルがだいぶ下がっていたのと、ちょうど見たい映画がやっている時期だからこそ誘いに乗ってくれたんだろうということはわかる。だからこそ安直ではあるけれどここをデート場所に選んでよかった。
思った以上の表情豊かな風花に、さっきからドキドキが止まらない。黙っているとクールビューティーというイメージだけど、ちょっと笑うだけでこんなに可愛くなるのか。やっぱり今日、頑張って来て良かった。
にやけそうになる顔をなんとか引き締めて、とりあえずゆっくり落ち着いて喋れる場所に移動しようということになった。
そうなると、ここを出て外を行くということで。
「あー結構降ってんな。駅、あっちの方だよな」
本来なら色々とデートプランを考えていたんだけど、さすがにここまで雪が降ると思っていないから出歩くものにバツをつけて、結局駅ビルに向かうことにした。ここの最寄り駅は大きいから開いているだろうしそこなら一通りのものがあるだろうから。
それにしてもなかなかの雪模様だ。
吹雪いてはいないけれど、ロマンチックというには少々量が多い。少し離れたら見失いそうな気さえする。滑って転ばないように気を付けないと。
とりあえずずっとここにいても仕方ないからと歩き出すと、風花が隣に並んで、またごめんねと謝ってきた。あくまで風花の中ではこの雪は自分のせいらしい。
「そんな楽しかった? 映画」
その罪悪感をいきなり全部なくすのはまだ難しそうだから、代わりにそんな言葉を振ってみる。さっきより降っているということは、俺と会ってからのこの時間が楽しかったことですか、と。
「うん。篠目と一緒だったからかな」
すると風花は迷うことなくあっさりと頷いて、そんなセリフとともにはにかんで見せるから思わず悲鳴が上がりそうになった。可愛いが過ぎる。
てっきり俺のしつこい押しと映画を見たい気持ちに流されて来てくれたと思っていたのに、そんな嬉しいことを言われたらたまらなくなってしまうじゃないか。
風花がデートの誘いを受けてくれてからというもの、どうやって家に連れ込んでエロいことに持ち込もうかと真剣に頭を悩ませ続けた昨日までの自分をひっぱたいてやりたい。
見てみろ、このイノセントでピュアな可愛らしい微笑みを。お前はこの美人に軽蔑されて嫌われたいのか。
もっと穏便に、無理やりじゃなく時間をかけて温泉とかでしっぽりと抱く方が似合ってるだろうが! ……じゃなくて。
今はそういうやましいことを奥底に封じ込めて、友達以上恋人未満の状態をピュアに楽しもうじゃないか。いくら厚着していたって、勃ったらバレるんだからな。
「あ、ちょっと待って」
ぐるぐる回る思考を誤魔化すためにいつの間にか早足になっていたのか、後ろから風花の声がして、ダウンの袖をきゅっと掴まれた。
「!」
「はぐれると困るから」
袖! 距離感! 困り顔!
「篠目?」
「ちょっと待って。怒涛の可愛さにやられてる」
「なにそれ」
あまりの可愛さに語彙がすっ飛んで立ち尽くす俺を不思議そうに眺める風花。
実際の距離か心の距離か、とにかく袖を掴まれたことによって心まで掴まれた。俺が変なことを言ったかのような顔で笑うその顔まで可愛くて思わず天を仰ぐ。
ただそのまま突っ立っていると風花が不審に思いそうだったから、気合を入れ直して短く息を吐いた。デートをしているんだ。こんなところで立ち止まってはいられない。
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