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第5話
「色々行きたいとこあるし、したいこともあるし」
「そっか」
あれもこれもと指折り数える俺に、風花が目を伏せたから引いたのと思ったけれど、その声が嫌な響きではなかったから少し考えてから問いかける。
「……嬉しい?」
「嬉しい」
すると間髪入れずに応えられてさすがににやついてしまった。
俺は当たり前だと思っていたけれど、どうやら風花はそう思っていなかったらしい。本人の中で「雪男」ってことは俺が思っている以上に深刻に嫌われる条件のようだ。
だから次の予定を、しかも雪が降るのも織り込み済みでそれに対応した話を当たり前にする俺に対して、だいぶ好きの気持ちが上がってくれたらしい。
……まあ、なんとも思ってない奴だったら、出かけるたびに雪が降るのは面倒だと思うかもしれないけど。それぐらいでこの風花が独り占めできるのならむしろ雪男でいてくれてありがとうって感じだ。なにより。
「恋人ですから。そりゃ楽しませたいよ。風花って笑顔めちゃくちゃ可愛いもん」
「……そんなの初めて言われた」
「いやマジで。好きのレベルアップが早すぎてなかなかやばい」
一応内容が内容だからここだけ声をひそめて風花だけに聞こえるよう囁けば、また驚かれてしまった。しかも俺の表現方法がぴんとこなかったのか首まで傾げられる。
ていうか恋人ってことはつっこまないのか? あれ? そのスルーはどっちの意味?
「あ、待った。それ俺が買うから」
どういう判断をしたものか口に出して聞く前に俺の前から風花が消えた。
俺が選んだニット帽とマフラーを持ったままレジの方向へ向かう風花を慌てて追えば、どうやら他に目的があったようでぴたりと足が止まり。
「篠目はこれがいい」
そこにあった赤い手袋を差し出される。ちゃんとスマホ対応のなかなか暖かそうな、けれどだいぶ目立つ赤の手袋。
「これはさすがに派手じゃないか? あ、お揃い?」
「これで篠目が遠くから手振ってくれても気が付くから。……あと、赤のお揃い」
プレゼントしたい、と嬉しそうに言われて隠れてぐっと拳を握り締める。
どうしよう。可愛い。抱きしめたい。キスしたい。
いくら人が少ないからってこんな場所でそんなことできないけど、それでもしたいと思うほどに好きな気持ちでいっぱいだ。
風花はどれだけ自分が雪男だってことで感情に鍵をかけていたんだろう。一気に溢れ出しすぎてもったいないほどに零れ落ちている。しかもそれが全部俺に向けられているかと思うと、感激と情欲でめまいがしそうだ。
やばい。こんなの誰だって好きになっちゃう。これは早急にもっとしっかり俺のものにしておかないと、誰かに盗られるかもしれない。
もっと距離を詰めたい。
今日、思っていた以上に近づいて、本来なら十分な距離のはずなのに全然足りないと思ってしまう。もっともっと、風花に俺の好きな気持ちを伝えて、好きになってもらわないと。
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