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牡丹雪

  今は一体何時なのだろうか。  暗がりの中で時計を探す。まだ視界は晴れなくて見つけられなかった。  すぐ隣に顔がある。さっきはあれほど見つめていたのに、今は気恥ずかしそうに視線を逸した彼が居る。  ベッドに引き込んだのは僕だ。ただ触れるだけでは満足出来ず、更に彼の感触を味わいたいと浅ましくと要求したのだ。欲望を剥き出しにした僕はどれほど見苦しいものだろう。なのに彼は抵抗などしない。拒絶もない。穏やかなまま、僕のベッドに収まってしまった。  強引な僕に身を任せ服を脱がされながら、彼は手を伸ばして照明のリモコンのボタンを押した。  暗くなる部屋にぼんやりと彼の白い肌が浮かぶ。石鹸の香りは強くなって、直に胸に顔を埋めると彼は身震いした。  僕の体温に比べると彼の身体はぬるい。細身の彼は、長い手足で僕を包み込む。やっと唇と唇が重なるとミントの味がした。絡みつく舌ですら温度差がある。深い触れ合いが嬉しくて、また涙が一粒落ちた。彼は、見兼ねたように微笑んで指で僕の顔を拭う。  一瞬だけピントが合って、彼の顔がハッキリと見える。左目の端に印象的な泣きぼくろがある。そこに触れようとした途端に、彼に頭を抱えこまれてしまった。頬が赤く染まった彼の嬉しそうな笑みだけが、ぼやけた僕の脳裏にまた刻まれた。  疼きと乾きに任せて彼の体を闊歩する。身体を触れられることに慣れていないようなぎこちない彼は、僕の所作をただただ追っていた。  二人の体を覆う布団の中は、すっかり熱気が溢れている。自分の体を持ち上げるにはまだ回復が足りない僕は、スプリングに体を沈めたまま両手で二人分の昂ぶりを握り込む。途端に彼が小さく鳴いた。手も足も舌も絡めて夢中で貪る。互いに汗ばんで熱が混ざっていくのが分かる。  頭痛はこびりついていたが、自分でもそんな余力があったのかと呆れてしまうほどに行為に没頭し、快感にすっかり満たされてパタリと果てた。彼の上がった息遣いを間近に聞きながら、僕は深く眠りに落ちていた。

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