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王子様×水の微精霊×衝撃の事実
事実ではあるけど、はたしてブランにいたことを王子様に話していいのか。
悪いことはなにもしてないにしても、もし話して圭太が不利になるようなことがあったら困る。
かといってこのまま黙っているのも余計な疑惑を生みそうだし、どうしたらいいんだろう。
難しい状況に頭を悩ませていると、突然すぐ近くから子供の高い声が聴こえた。
『風の守護者!』
「ひぅっ」
「!」
『ハルトをつれていったの、ブランの風の守護者』
かなりの至近距離から聴こえてきた声に、心臓が体を突き抜けそうな勢いで跳びあがった。
ドッドッドッと激しく脈打つ心臓を押さえながら恐る恐る声が聴こえた方へ首を回す。けどそこには誰の姿も見あたらない。
昨日までの自分であればこの状況をまちがいなくおばけの仕業だと決めつけただろう。けど俺は少し前に、似たような経験をしたばかりだった。
同じく声に驚いた様子の王子様が、俺の左肩に視線を向けてその正体をつぶやく。
「水の微精霊か」
そう。声の正体は、俺にくっついて長いこと黙(だんま)りを決めこんでいた水の微精霊だった。
「まだくっついてたんだ……」
まさかあれからずっとひっつかれていたなんて思いもしなくて、ただただ感心する。
「お前やっとしゃべったな。全然話さないからしゃべれないのかと思ってた」
姿は見えないんだけど、自分の左肩に視線をやって水の微精霊に話しかける。すると水の微精霊が不満そうな声でそれに応えた。
『ブランの風の守護者、勝手にハルトつれてった。きらい』
なんだかよくわからないけど、水の微精霊は俺にこの城にいて欲しくて、だから俺をブランに連れていった圭太のことが気にくわないってこと? それでずっとしゃべらなかったのか?
「ブランの風の守護者は……確かケータとかいう名前だったか。なるほど、そいつがこの者をあの部屋から連れ出したのか」
王子様は水の微精霊の言葉に納得した様子で頷くと、今度はこちらに向かって冷たく鋭い視線を投げかけてきた。
「お前はやはり、ブランの手の者なのか」
「……っ!」
水の微精霊の言葉に俺がブランのスパイだということを確信した様子の王子様に、低く地を這うような声で問われる。
ま、まずい。
これは完璧にブランのスパイだって誤解されてる。ちょっと待てよ? スパイって敵に見つかると拷問されるんじゃなかったっけ!?
「ち、ちが……俺、スパイなんかじゃ……」
これからのことを考えて泣きそうになりながら首を横に振っていると――――。
『黒の王子、ハルトのこといじめないで!』
「!」
姿は見えないけど、水の微精霊が俺と王子様のあいだに割って入ってきたのがわかった。
『ハルトとブラン、関係ない。ハルト黒の王子の敵じゃない』
「間者ではないというのか? どういうことだ、お前はこの者が何者か知っているのか?」
俺を庇う水の微精霊に王子様は訝しげに眉を寄せた。けれど、敵じゃないという言葉を聞いたあとから、それまで張りつめていた空気が少しだけやわらいだのを感じた。
『そ、それは……』
王子様に矢継ぎ早に問われた微精霊は、あきらかに動揺した様子で口ごもった。どうやら本当になにかを知っているようだ。
「言え」
王子様も同じことを思ったのかもしれない、水の微精霊を凍えるような視線で捉え命令する。
それは言われた本人でない俺ですら身を縮こませる迫力があった。当事者である水の微精霊はもっと恐怖を感じたにちがいない。
『お、おこらないで。ハルト黒の王子のためにつれてきた』
「私のため……?」
慌てて白状された内容を王子様は釈然としない様子でおうむ返しにする。すると水の微精霊は怯えたような声を一転させ、歌をうたうように話しはじめた。
『伴侶! ハルト、黒の王子のお嫁さん』
聞かされたのは衝撃的すぎる内容。
「!」
「はあ!?」
似つかわしくない言葉で形容された俺は驚愕して目を見開く。水の微精霊の言っている意味がわからなくて呆然とその言葉を聞いた。
『あっちでハルト見つけた。けどつれてくるの、とっても大変だった。みんなでおとうさんにたくさんお願いして、雷の精霊にもたくさんお願いした』
いかに苦労して俺をこっちの世界に連れてきたのかを一生懸命に語る水の微精霊。
『でもおかげでハルト、こっちにきた』
本当に嬉しそうに弾んだ声。内容が内容でなければとても可愛らしいのだけども、その内容に問題がありすぎる。
なんでも俺は、この可愛らしい声の主によってこの世界に連れてこられたらしい。
王子様の嫁になるために………………って。
「なんじゃそりゃああ!!」
もう、本当に、どんな理由だよ。だいたい俺は男なんだから嫁にはなれないし、なったとしても婿だろ! 精霊の考えることはぶっとびすぎている。
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