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石×きらきら×王子様

   自力で探すことはむりだと教えられてガッカリしていると、いつの間にか距離を詰めていたオーギュスタンがこちらを見下ろしていた。  綺麗な黒曜石の瞳に静かに見つめられて、落ち着かない気持ちになる。 「ハルト」 「う、うん?」  そわそわしていると、オーギュスタンがしゃがみこんで視線を合わせてくる。それに思わず後退しかけたところをがっちりと腕を掴まれて阻止された。 「今から見えるようにしてやるからじっとしていろ」  どうやら、前回ここへ来たときにかけてもらった精霊が見える魔法をもう一度かけてくれるらしい。  そっか、そしたら俺でもきらきらの石を探せるじゃん! やった!  俺は嬉々として顔を上に向けると目を閉じて、オーギュスタンが魔法をかけてくれるのを待つ。 「…………ん?」  だけどしばらく待っても一向にオーギュスタンが触れてくる気配がなくて、首を傾げた。 「もう終わった?」  もしかしたら触らなくても魔法をかけることができるのかもしれないと思い、目を閉じたまま尋ねると、すぐ近くで息をのむ気配がする。どこか焦ったようなオーギュスタンの様子に、今度は反対側に首を捻った。 「いや。すまないこれからだ」  そう早口に否定すると、オーギュスタンは目元を撫でるように指を滑らせた。触れられたところからじんわりと熱が広がるのを感じると、もう目を開けても大丈夫だと教えられる。  そっと瞼を持ち上げると、そこには以前にも目にした眩しい世界が広がっていた。色とりどりの、いろんな微精霊や精霊たちの姿。 「……っ」  絵本のなかを覗いているような幻想的な光景につい見入ってしまっていた俺は、遅れて今回の目的を思い出すと慌てて辺りを見回した。  いけないいけない。精霊たちの姿を見て楽しむのはきらきらの石を探したあとだ。 「あ、ありがとうオーギュスタン。なあきらきらの石ってどれ? この辺りにある?」  尋ねながらきょろきょろと視線を動かして、それらしきものを探す。  微精霊や精霊たちの力の欠片ってことは、似たような光り方をしてるのかな。それだと少し紛らわしそうだけど、ちゃんと探せるかな? 「そうだな――」  不安になっていると、一緒にきらきらの石を探していたオーギュスタンがふと一点に目を止めて、そちらへ足を向ける。 「ハルト。これがそうだ」  水辺にしゃがみこんだオーギュスタンに呼ばれて小走りで近づくと、その手のなかを覗きこむ。するとそこにビー玉くらいの大きさの青みがかった光の塊を見つける。  きらきらの“石”という名前から宝石のようなものを想像していたけど、石というよりは光の集合体だった。  え、これ本当に触れるの?  オーギュスタンから渡されたきらきらの石を恐る恐る受けとると、光の塊がころりと手のひらを転がる。特に冷たくもなければ熱くもない。ただビー玉と同じくらいの重みを感じた。 「淡く青みがかっているから、これは水の微精霊のものだな」 「へぇ! そうなんだ」  色でどの精霊のものか判断ができるらしい。じゃあ他の精霊のものだったらこれとは別の色をしているのか。  きらきらの石がどんなものかを知った俺は自分でも見つけてみたくなって、辺りを探しはじめた。 「精霊石自体は珍しいものだが、ここならば精霊も多く棲むし他者の手もついていないだろうから、見つけるのはさほど難しくないはずだ」  オーギュスタンの言葉どおり、草を掻き分けていた俺の目の前にほんのりと若草色に光る塊が現れた。今度はオーギュスタンが見つけたものよりも一回りほど大きい、ピンポン玉くらいのものだ。 「あった!」  それに目を輝かせると、興奮しながら手を伸ばして若草色のきらきらの石を拾う。 「オーギュスタン! 見つけた!」  自分でも見つけられたことが嬉しくてすぐにオーギュスタンのもとへ走り寄ると、手のなかのものをずいと見せつける。それにオーギュスタンは顔を綻ばせると俺の髪をくしゃりと撫でてきた。 「そうか。よかったな」  しばらくはしゃいでいると、ふとオーギュスタンが真面目な顔になる。 「ところでお前はこれをどのくらい集めるつもりなんだ?」  尋ねられて、なにも考えていなかった俺はきらきらの石に視線を落とした。  微精霊たちはこれがお金になるって教えてくれたけど、そもそもどれくらいの価値があるものなんだろう。俺としては、オーギュスタンと買い物に行くのに困らない程度の金額があれば十分なんだけど。 「えっと。もしこれをひとつ売ったらなにが買える?」  多分こちらの感覚でいくらと言われてもわからないだろうから、買えるもので価値を測ろうと思った。 「そうだな……その大きさならば、それほどいい馬でなければ十頭くらいは買えるだろう」  少し考えるようなしぐさをしたあと、オーギュスタンが淡々と答える。その言葉に俺は目をひん剥いた。  馬十頭!?  驚きすぎて手のなかのものを取り落としそうになる。  それって友達とちょっと買い物レベルじゃなくないか!? 確かにお金が欲しいとは言ったけど、大金が欲しいわけじゃない。 「そっ……そこまではいらないんだけど。オーギュスタンと食べ歩きしたり、ちょっとした買い物するのにお金が欲しかっただけだから」 「なんだ。それならばわざわざこんなことをしなくとも、私に言えばよかったものを」  買い物に必要な金銭くらいこちらで用意すると、オーギュスタンがどこか呆れたように口にする。それに俺は首を振った。 「そんなことしたら対等じゃないだろ。俺はお前と対等がいいの。だから自分で使う金は自分で用意したかったんだ」  まあ偉そうなことを言いながら、ほとんどをオーギュスタンに手伝わせてしまったんだけど。それでも、ただお金を出してもらうよりかはずっといい気がした。 「それにこうやって一緒に探すのも楽しくない?」  もともとはひとりで来るつもりだったけど、やってみるとこんなふうにふたりで探すのも宝探しをしてるみたいで面白い。 「な?」  へらっと笑いかけると、それまで静かにこちらを見つめていたオーギュスタンの瞳が瞬いた。不思議なものでも見るような眼差しに、あれ? と首を傾げる。  もしかして楽しいのって俺だけ?  思い起こすと、はしゃいでいたのは自分ひとりで、オーギュスタンはそんな俺のお守りをしていただけのような気もする。正しい状況を把握すると、なんだか恥ずかしくなってきた。 「――――なんて。オーギュスタンは俺の面倒見てただけだから、そうでもないか」  早口にそう言って誤魔化すと、オーギュスタンの視線から逃れるように背中を向けた。  ちょっと仲良くなってきた気がしたからって、調子に乗りすぎたかもしれない。顔を覆って反省する。 「いや」  否定の言葉に反応して後ろを振り返ると、さっきよりも近い距離にオーギュスタンの姿があった。 「目まぐるしく動き回り、ちょっとしたことで一喜一憂するお前を見ているのは悪くなかった」 「!?」  穏やかな表情でこちらを見下ろしていたオーギュスタンが俺の髪を一房手に取り、そっと唇を落とす。それからなにごともなかったかのように手を離した。  俺は固まったまま、甘さを帯びた瞳でこちらを見つめるオーギュスタンを凝視した。  

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