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王子様×準備×新事実

   無事にきらきらの石をゲットした俺たちは、一度城へと戻った。  街へ下りるためか、オーギュスタンは城にいるときの王族然とした格好から旅人風の格好へ着替えると、目深にフードを被り顔を隠している。確かに、王子様が顔をさらけだして普通に買い物をしていたら騒ぎになりそうである。  俺も渡されたいつもよりも地味めの、少しくたびれた服に着替え終わり、準備は万端だ。  なんで地味めかというと、いかにも高そうな格好をして街中を歩くと変な奴に絡まれやすくなるらしい。日本に比べるとあんまり治安がよくないのかもしれない。  そんなことを考えながら旅人っぽいオーギュスタンを上から下まで遠慮なく眺めていると、腰に吊るされたものに目がとまり息を飲む。もとの世界じゃまず目にすることがない、歴史の中やファンタジーの世界で存在を知っているもの。 「それって……剣? 本物?」  いや、見た感じおもちゃじゃなさそうだし本物なんだろうとはわかったけど、聞かずにはいられなかった。  俺の問いにオーギュスタンが心底不思議そうに首を傾げる。 「? 偽物を下げてどうするんだ。王都といえど安全ではない。スリや人攫い、柄の悪い輩もいる。護身用の武器など子供でも持つだろうに」 「えっ!」  オーギュスタンの口から教えられた物騒な存在に、思わず声を荒げてしまう。 「そ、そうなの……?」  子供でも武器持つくらいこの世界って物騒なのか?  おそるおそる尋ねると、今度は逆にオーギュスタンが驚いたように眉を跳ねあげた。それから顎に手を添え考える仕草をとったあと、おもむろに口を開く。 「お前の世界にはそういった輩はいないのか?」 「え? う~ん……俺が住んでるところではあんまり聞かないかな」  ひったくりとか誘拐がないわけじゃないけど、当たり前のように日常にある存在じゃない。外国でならそういう話も聞くけど、日本の治安はそこまで悪くなかった。オーギュスタンのように刃物なんて所持していたらお巡りさんに捕まってしまう。  そう説明するとオーギュスタンはとても驚いた様子だったけど、なぜかすぐに納得したように頷いた。 「……どうりで」 「へ?」 「いや。街では俺の傍から離れるな」  さらに、人が多いのではぐれることがあるかもしれないと手を繋ぐことを提案された。 「ちっ、小さな子供じゃないんだから、そんなことまでしなくていいよ」 「子供でなくとも、ハルトのようにぼんやりとして隙だらけの人間は格好の餌食だ。お前のいた世界とこちらとを同様に考えるな」  正論を返されて、ぐうの音を出ずに黙りこむ。  もともと拳の喧嘩すらまともにできないんだ。剣や魔法が当たり前の世界で、自力で身を守れるとは到底思えない。これはもう大人しくオーギュスタンに手を引かれるしかないんだろう。  だけど、街中を男同士で手を繋いで歩くなんてして大丈夫なのか。周りからおかしな目で見られたりするんじゃないの?  不安になってオーギュスタンにそのことを話すと、これまた不思議そうな顔を返された。 「なぜだ?」 「いやだって、いい歳をした男同士が手なんて繋がないだろ普通」 「無意味に繋ぐことはないと思うが、恋仲であればおかしな話でもないだろう。そう見られるのが嫌なのだとしても、こればかりは安全のためだ。我慢してもらう他ない」  ――――んん?  なんか俺とオーギュスタンの話が噛み合ってない気がするんだけど、気のせいか。あと恋仲であればって……ええ? 「恋仲だったらおかしくないのか?」 「何を言っている?」  なにをって……いや、それはこっちのセリフなんだけど。 「……」 「……」  話が通じなくてしばらくお互いに眉を寄せたまま見つめ合っていたけど、しかし突然、ある可能性が閃いた。  まさか!  オーギュスタンの反応からして、もうそうだとしか考えられない。 「もしかしてここって男同士の恋愛が普通、だったり、して……?」  おそるおそる疑問を投げかける。はじめは訝しげに眉を寄せていたオーギュスタンだったけど、俺が真剣に聞いていることに気づいたらしく、困惑しながら口をいた。 「私の伴侶であるお前が今さら何を言っているんだ」 「!」 「恋仲になるのに、どうして性別を気にする必要がある」  この返答に、予想した考えが事実だと確信する。そうするとこれまでのすべてのことに合点がいった。  同性だというのにオーギュスタンが俺との結婚にまったく迷いがなかったことも、俺の好きな相手が男だということになんの疑問ももたなかったことにも、全部。本当にすっげー今さらだけど、気づいた。  世界がちがうとこうもちがうものなのだろうか。  呆気にとられていると、オーギュスタンからフードを被せられた。 「顔を隠しておけ」 「ん? これ、俺も被るの」  それに我に返った俺は、ちょいっとフードを摘まみながら尋ねる。王子様のオーギュスタンが顔を隠さなくちゃいけないのはわかるけど、一般人の俺がはたして顔を隠す必要があるのかと疑問を覚えた。 「ハルトの肌はこちらでは珍しい色をしているから、人攫いに目をつけられる可能性もある。厄介ごとを避けるためにも要心しておくに越したことはないだろう」 「そうなんだ」  こっちでは黄色人種ってあんまりいないのかな。  そういうことならオーギュスタンに従った方がいいだろうと、納得した俺はフードの上の部分を下へ引っ張って顔を隠した。  はじめは軽い気持ちで買い物に行くつもりでいたけど、平和な環境で暮らしてきた俺にとってはなかなかハードルの高いことだったらしい。  大丈夫だろうかと少しだけ不安になっていると、オーギュスタンにそっと手をとられた。厚みのある皮膚をした大きな手がすっぽりと俺の手を握る。 「私がいるのだから危険な目に遭わせるつもりはない。ハルトは私の手を離さず握ってくれていればいい」  落ち着いた声で告げられて、こくりと頷いた。オーギュスタンが大丈夫だと言うのなら大丈夫なのだろうと、すんなり思えたからだ。  手のひらから伝わるじんわりとした熱に安堵して、ホッと息を吐いた。  

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