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王子様×返答×動揺
一度腹を括ると、中途半端に服を身につけていることの方が恥ずかしくなってくる。
俺は上体を起こしてもぞもぞと袖から腕を抜くと、ワンピースを脱ぎ捨てた。そうして下着一枚になって改めてオーギュスタンと向き合う。
突然思いきりよく服を脱いだ俺に、オーギュスタンは心なしか驚いているように見えた。
「お、俺も脱いだから、お前も脱いで」
恥ずかしい思いをして裸を晒したのに、オーギュスタンだけきっちりと服を着ているのは狡いと思った。
現状が不服で訴えてみると、オーギュスタンの瞳が大きく見開かれる。口にしたあとで、自分がとんでもなく大胆なことを言ってしまったことに気づく。
「あ」
っわわわわ、やっぱり今のナシで!
慌てて前言撤回しようとしたけど、それよりも早くオーギュスタンが頷いた。
「分かった」
「へ!?」
返事のすぐあとに、着ていたものを躊躇いもなく脱いでいく。目の前で服を脱がれるのがこんなに心臓に悪いものだとは知らなかった。
バランスよく筋肉のついた、褐色の肌が露になる。オーギュスタンが得意なのは魔法のようだけど、体もちゃんと鍛えているのか全体的にしっかりとして引き締まっていた。
俺のぺらぺらの胸板ややわらかい腹とは大違いだ。
これは完全にはやまった。
直視できなくて視線を横に逃がしていると、素肌を晒したオーギュスタンがこちらに向き直る。
「これでいいか」
「! う……いや、あの」
その破壊力に俯いて手をもじもじさせていると、不思議そうに首を傾げられた。
「ん?」
答えに詰まっていると穏やかに返事を促されて、観念する。
「……はい」
あああ……俺のばか。
ただでさえ緊張しているのに、さらに自分を追い詰めてどうするんだ。
恥ずかしくてオーギュスタンの方を見れずにいると、頬を両手で包まれて上を向くよう促される。そうして、今日何度めかわからない口づけを受けた。
甘く舌を吸われながら、遮るものがなくなった肌をそっと確かめるように撫でられる。
「……ん」
離れた唇が今度は首筋に触れて、ところどころに吸いつきながら下へ移動していく。擽ったくて肩を竦めると、胸の辺りに口づけていたオーギュスタンの指が、小さく主張していた尖りに触れた。
それに慌てて声をあげる。
「おおおオーギュスタン、そこはあの……触っても楽しくないから……っ」
女の子じゃないから膨らみがあるわけでもない。なんだか申し訳ない気持ちになってもごもごしながら訴えると、オーギュスタンがそっとそこを押し潰してくる。
「……っ……」
「私には十分、価値のあることだが。嫌か?」
「ふ……。いやっていうか……その、触りたいんなら、止めないけど」
まさか自分のあるかないかもよくわからない胸に対して、きっぱりと価値があると返されるなんて思いもよらず、しどろもどろになりながら視線を落とす。
恥ずかしくて落ち着かずにいると、今度は柔らかなものにそこを包まれた。
「っ!」
ちゅ、と軽く吸われて腰が痺れる。
目を開けていられなくてきつく瞼を閉ざすと、余計にオーギュスタンの唇や舌の感触を拾って、大変いたたまれなくなってしまう。
触られるだけで心拍数が異常なことになっているのに、これ以上のことなんて本当にできるんだろうか。
怖じけづいて逃げ出したい気持ちが芽生えてくるも、でもこれ以外に方法がないのなら避けるわけにもいかないと、自身を奮いたたせる。
「オ、オーギュスタン」
名前を呼ぶと、オーギュスタンは顔をあげて「どうした」と静かに尋ねてくる。
「あの……あのな。今日水の精霊が部屋に来てくれて、会ったんだけど……」
「!」
「それで、俺、向こうの世界とこっちとを行き来する方法がないか聞いたんだ」
俺があっちとこっちを行き来できるようになるためにはオーギュスタンの協力が必要だった。だけど方法が方法なだけに、その内容を口にするのは勇気が必要で、一旦言葉をきる。
「ハルトから、界渡りの方法を水の精霊に聞いたのか?」
俺が水の精霊に尋ねたことが意外だったのか、オーギュスタンが呆気に取られた様子で問いかけてくる。
今まで帰りたい、残れないとは口にしていても、ここにいたいなんてことは一言も伝えたことがなかったから、当然の反応ともいえた。
「う、ん……。でもそれにはオーギュスタンの協力が必要で」
「私の?」
訝しげに眉根を寄せるオーギュスタンに、こくりと頷いてみせる。今すぐにでも心臓が止まりそうなくらい緊張していて、唇が震えた。
「オーギュスタンとの絆が必要なんだって。だから、その――――」
絆を繋ぐために、俺とオーギュスタンが繋がる必要があることを説明する。
こんなことを伝えて、とても顔を見ることなんてできなくて、俯いたままオーギュスタンの反応を待った。
「……」
けれどどれだけ経っても返答がなくて、次第に不安が大きくなる。沈黙が堪えられず恐る恐る顔をあげると、そこには難しい表情をしたオーギュスタンがいて、思い悩むような姿に息を飲む。
部屋のどこか一転を睨むように見据えて、しばらく考えこむように唇を引き結んでいたオーギュスタンは、ふいに重たい口を開いた。
「それは、できない」
浅はかにも断られることを考えていなかった俺は、オーギュスタンの答えにひどく動揺した。
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