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王子様×最後の夜×苦悩

 う、わあ……。  ――――恥ずかしい。  なんでこんなとんでもないこと、頼んで受け入れられるなんて思ったんだろう。  恥ずかしい恥ずかしい。  あんなに熱を感じていたはずの体は、今は氷水を被ったように冷え冷えとしている。ただ、顔だけが熱を孕んでいた。  ベッドの上に座ったまま何も反応できずにいると、腕を掴まれ引き寄せられる。そのままオーギュスタンの腕の中に閉じこめられると、俺は戸惑いながらも詰めていた息を吐きだす。  そっと、オーギュスタンの顔を仰ぎ見る。  オーギュスタンはこちらではなくまっすぐ前を見ていて、どこか躊躇うように口を開いた。 「今夜お前に触れたことを……私は少しばかり後悔している」 「!」  唐突に告げられた内容に衝撃を受けた。  けれどそう言いながらもオーギュスタンの腕はしっかりと俺を抱きこんだままで。そんな言葉と行動の矛盾に戸惑いを覚える。  後悔しているなら、どうしてこんなことをするのか。もし俺に触れたことで気持ちが冷めてしまったのなら、こんなふうに腕に抱く必要はないはずだ。  困惑しながらも離されるのは嫌で、オーギュスタンの胸に顔を押しつける。  そもそも、オーギュスタンのような相手が俺を恋愛感情で好きだというのがおかしかったんだ。だから今日、こうやって触れたことで、思い違いに気づいたのかもしれない。  俺のことは、そういう意味では好きじゃなかったのかも。  それなら絆を結ぶ必要はなくなる。俺が元の世界に帰って二度とこっちに来れなくても、オーギュスタンにはなんの問題もない。  そう考えた途端、胸の奥が大きく軋んだ。 「……っ」  オーギュスタンの気持ちがなくなったかもしれない。そのことに対してショックを受けている自分自身に、驚く。  呆然としていると、オーギュスタンの顔が俺の肩に埋められた。予想外のことにびくりと体を揺らすと、恐る恐るオーギュスタンの様子を窺う。 「オーギュスタン……?」 「触れたら、余計に、離れがたくなってしまった」 「!」  オーギュスタンがどんな表情をしているのか、わからなかった。ただ触れている場所が尋常でなく熱い。 「こんな状態で抱いたりしたら、一瞬だって手放せる気がしない。あの男のいる世界になど帰せなくなる。そうなればお前は困るのだろう」  突き放されると覚悟していた。なのに返ってきたのは真逆のもので。熱烈な告白に、ひたすらこちらを気遣うオーギュスタンに、呼吸が苦しくなる。  なんでだ。どうしてオーギュスタンに想われているんだってわかった途端、震えるくらい嬉しくなるんだ。体がジンと痺れて、心臓がぎゅうぎゅうに引き絞られて。  泣いてしまいそうだと思った。  そんな自分の反応が信じられなくて、一層混乱する。  これってどういうこと……? そもそも、好きじゃない相手に触れられて口づけられて、嫌じゃないなんてあるのか?  なんとも思っていない相手とこんなにくっついて、恥ずかしかったり胸が高鳴ったり、安心したりなんかする?  どんな理由があったとしても、体を繋げても構わないと思える相手って特別以外にないんじゃないのか。  それって……それって……。  行き着いた答えに思考が強制停止する。 「ハルト?」  許容範囲を超える内容に脳が考えることを放棄していると、オーギュスタンが案じるように顔を覗きこんできた。 「!? え、あッ……なに?」  それに盛大に仰け反り、返事をする。  だ、だだだめだ……オーギュスタンを直視できない。もともとこんな状況でまともに見れてなかったけど、余計に見れなくなった。  落ち着け俺。落ち着け俺!  息の仕方も怪しい中で、なんとか落ち着こうと深呼吸を繰り返す。だけど何度繰り返してみてもまったく効果がない。今はとても落ち着くなんて無理だった。  軽いパニックに陥っているとオーギュスタンの腕が緩み、俺たちの間に距離があく。遠退くぬくもりに肌寒さを覚えて、ふるりと震える。 「私のことを気にして界渡りの方法を探してくれたのだろうが、これ以上無理をする必要はない」 「え?」  無理?  言っている意味がわからず聞き返すと、オーギュスタンは自嘲するように口許に薄い笑みを浮かべる。 「竜の子を引き取る条件として、無茶なことを押し通した自覚はある。だからこれ以上は望まない。無理をするな」  最後の夜をこうして過ごせただけで十分だとつけ加え、静かに目を閉じる。  オーギュスタンは俺がオーギュスタンのために無理をしていると、そう思っているようだった。 「ちがう、無理なんかじゃ……」  オーギュスタンが思うほど俺はいい奴じゃない。  あっちとこっちを行き来できるようになれば、オーギュスタンを悲しませなくて済むんじゃないか。そういう考えも少なからずある。だけどそれ以上に、オーギュスタンに二度と会えなくなることが寂しかった。  一番の理由は俺がそう望んだから。無理なんかしていない。  そう訴えようとしたけど、それよりも先に平坦な声に遮られる。 「お前はあの男のことが好きなのだろう。ならば私との行為はお前が望むものではないはずだ」 「っ!」  圭太を引き合いにだされて息を飲む俺を残し、オーギュスタンがベッドを降りる。 「―――今日はこちらで休め。私はあちらで眠る」  もう終わりだとばかりに話を終わらせて、隣の部屋へと向かおうとするオーギュスタンに狼狽えた。 「オ、オーギュスタン……」  このまま行かせるべきじゃないと頭ではわかってるのに、うまく言葉が出てこない。  圭太は、圭太のことは……。  呼びかけに足を止めたオーギュスタンが振り返る。それからどこか困ったような表情を浮かべると、こちらに歩み寄り、俺の髪をくしゃりと撫でた。 「明日は早くに起きて、お前を帰さなければならない。もう寝ろ」 「……っ」  今オーギュスタンと絆を結ばなければ、明日以降に機会はない。絆が結べなかったら、俺があっちとこっちを行き来することもできなくなる。  このまま別れたらだめだ。  そう思うのに、圭太を好きなのだろうと言われれば、なにも返すことができなかった。  圭太とは幼馴染みとして付き合っていくと決めた。だけどそんなにすぐに好きだったという気持ちがなくなるわけじゃない。今も大切な存在ということは変わらない。  あちらの世界のなにもかもを諦めて、こちらに残ることも選べない。俺の気持ちはどこまでも中途半端だった。  オーギュスタンを引き留める言葉なんて、言えやしない。  

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