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王子様×帰る場所①
優しい雨のようだ。
パサパサに乾いた土地に降りそそぐ雨のように、オーギュスタンに触れられるたびに心が潤い、満たされていく。
後ろから抱きこまれるような形で横になると、普段は服のしたに隠されている場所を大きな手のひらが這う。
指で。唇で。肌を撫でられて、時折痕を残された。
慣れないことに戸惑って名前を呼ぶと、手を止めて微笑まれる。そうして大丈夫だと励まされた。
髪に口づけられながら、オーギュスタンに触れられてささやかに反応したものをやわらかく握りこまれ、緩やかに擦られる。
「っ、ふぅ……。あっ」
今までで一番直接的な刺激に喉が反り返り、うわずった声が洩れた。
髪から移動したオーギュスタンの唇が、耳を甘噛みする。そのあいだも俺のものを擦りあげる手は止まらないままで、次々に与えられる刺激にあられもない声が洩れてしまう。
「……あっ、あ……待って。……オーギュスタンごめん、止まって」
これ以上はいけないと、咄嗟にオーギュスタンの腕を掴んで動きを阻む。
「どうした？」
そんな俺に、労るような穏やかな声が降ってくる。
「変な声、でる……」
自分じゃないみたいな、鼻にかかった甘ったるい声。オーギュスタンに触られるとそれが喉をついてでてくる。我慢しようとしてもむりだった。
こんな変な声を聴かせてオーギュスタンに気持ち悪く思われたらどうしようと、不安になる。
「声を聴かれるのが嫌なのか」
「……っ、うん」
吐息が耳にかかりぞくりとしてしまう。ざわざわとしたその感覚に堪えながら、オーギュスタンの言葉を肯定した。
だから、できれば変な声がでるようなことは避けながら行為を続けてほしい。
言いたいことを伝えることができてほっとしたのも束の間、返ってきたのは予想とはちがう内容だった。
「気にするな。お前の声におかしなところなど何もない。それに、敏感な部分に触れられて声がでるのは自然なことだ」
そう言って耳の裏側を唇でなぞられる。
「ッ」
「それは私を感じてでるものなのだろう？ ならば沢山聴かせてくれ……」
狡いと思った。そんなふうに言われるとそれ以上抗えない。
「っあ」
オーギュスタンを押さえていた手の力を緩めると、ゆっくりと手の動きが再開された。
自分では聞くに堪えないのに、聴きたいと言われてしまうと我慢もしづらく。だけどやっぱり羞恥には勝てなくて、少しだけ声を抑える。
「ん……、ん……っ」
初めて他人から与えられる刺激は予想以上に強くて、折耳に届く濡れた音にも羞恥心を煽られた。
腰のあたりからさざ波のように快感が押し寄せてきて、息を詰めていると、顎をとられる。
あ。と思ったときにはオーギュスタンの顔が目の前に近づいてきていて、ふんわりとやわらかな感触を唇に受けた。
感触を確かめるようにくっついては離れてを繰り返す、触れるだけの口づけ。
くすぐったさからそちらに気をとられていると、オーギュスタンの指がそれまでよりもより敏感な部分を集中的に責めたててきて、俺は呆気なくオーギュスタンの手のひらに熱を吐きだしてしまう。
「……ンん……っ」
それと同じタイミングで、口の中に熱いものが滑りこんでくる。奥で縮こまっていたものを絡めとられ愛撫され、眩暈がした。
酸素が足りない。息が上がる。唇を塞がれたまま縋るものを求めてオーギュスタンの腕を掴んで、きつく握りしめる。
ようやく解放されたときには、すっかり酸素不足に陥っていた。くったりと体を投げだしていると、さっきまで顎を捉えていた指が頬をくすぐる。
「大丈夫か？」
こちらの呼吸が落ち着くタイミングを見計らって投げかけられた問い。
初心者丸だしの俺を案じてくれているのか、返答によってはこれで終わりになりそうな雰囲気を感じとる。
気持ち的にはすでにいっぱいいっぱいだけど、途中でやめるのは嫌だった。だから首を縦に振って大丈夫だとアピールする。
「ゆっ……くりだったら、へいき」
このまま続けられると伝えて、後頭部をオーギュスタンの胸にぐりぐりと押しつけた。
欲しがってくれてるんなら、たくさんあげたい。それから俺も、オーギュスタンの存在をたくさん感じたかった。
そんな気持ちに応えるように、オーギュスタンの唇が頬に触れる。
目を閉ざすと、頬を離れたものが唇に落ちてきた。
それから、ゆっくりと言った俺の言葉通りに、オーギュスタンはそのあとの行為をとても慎重に時間をかけて行ってくれた。
いい香りのする潤滑油のようなものを、口にするのも憚れるような場所にたっぷりと塗りこめられる。
正直なところ、予想以上の異物感や圧迫感に途中で何度も音をあげそうになった。だけどオーギュスタンが俺を傷つけないようすごく気遣ってくれてるのが伝わってきて、なんとか堪えることができた。
俺の指よりもずっと太くて大きい指がいくつか入るようになるまで拡げられると、ようやく準備が終わり、体を仰向けにされる。
息も絶え絶えになりながら見上げると、いつもは澄ました顔をしているオーギュスタンの呼吸が少しだけ乱れていて、目の下がほんのりと紅潮していた。
この状況に少しでも興奮してくれていること知って、なんだか気恥ずかしいような、むず痒い気持ちになる。
嬉しい。
――――あの日の夜。絆を結ぶためだからと、安易に体を繋がなくて良かった。やっぱりこういうことは中途半端な気持ちですることじゃない。
改めてそう思う。
「オーギュスタン……」
「ああ」
どこか余裕のなさそうなオーギュスタンに、愛しさが募っていく。
俺は、オーギュスタンに向かって腕を精いっぱい伸ばすと、勢いに任せて抱きついた。
「すきだ」
つぶやいて、もう一度同じ言葉を繰り返す。
すき。
すきだ。
オーギュスタンのことを思うと切なくって、温かくって、優しい気持ちになる。
「この世界にきて、お前と出会えてよかった。俺を伴侶に選んでくれてありがとう……待たせてごめん」
俺が元の世界に帰るとき。
あのときオーギュスタンは、どんな気持ちで俺が帰るのを見送ったんだろう。
どんな思いで俺の肩を押したんだろう。
――――あいしてると口にしたんだろう。
夜の成長を見ると、俺がいなくなってからきっと一日や二日どころじゃない日々が過ぎている。
それでも。二度と戻らないと知りながら、いまだに部屋のあちこちに俺の気配が残されている。それに胸が締めつけられた。
本当に俺でいいの？
俺の存在は、オーギュスタンにとって負担だけじゃなかった？
無神経に傷つけたかもしれないとは思っても、すきだと言ってもらえることをした記憶はない。
急に不安が襲ってきて弱気になっていると、力強い腕に抱き返される。
「……っ……」
痛みを感じるほど激しい抱擁だった。
だけど今は、その痛みすら心地よく感じる。
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