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雪見計画

 しかしその『雪』。なんと東京で初雪が降るより先に見られることになってしまったのである。 「由宇、来週末空いてる?」  大学からの帰り道。当たり前のように二人で由宇のマンションへ向かいながら晴兎は言った。  普通のデートの誘いだったと思ったのだろう、由宇は「あー……うん。ヒマだと思う」とすぐに返事をしてくれた。 「そうか! そりゃ良かった。んじゃそのまま空けといてくれ。旅行行こうぜ」  晴兎の提案には目を丸くされた。 「旅行って、おま、なにをいきなり……」 「いきなりすぎるよな。でも事情があんだよ」  由宇の戸惑いは当然のものだっただろう。晴兎はちょっとすまなさそうな顔をする。  でもその奥にはいつも由宇をからかってにやにやするときのような色が確かにあって。  帰る道すがら晴兎は事情を話した。  晴兎は大学生活のかたわら、小さな会社の雑用係のバイトをしている。  電話を取ったり簡単な資料を作ったり、たまには使いっぱしりなんかもしたりというバイト。  「結構楽しいぜ。ラクだし、社員のひともいいひとたちだし」と普段から言っている。  そのバイトをしていて、おまけにかわいがられていたのが功を奏したらしい。 「社員のひとがさ、旅行を計画しててチケット取ったらしいんだけど、冠婚葬祭が入っちまったとかでチケットが泡になりそうなんだよ。んで、二週間なんて急なことだろ。ほかの社員のひとはみんな予定が入ってて、俺にお鉢が回ってきたというわけさ」  すでに由宇にはOKの返事をもらっているのだ。晴兎は得意げに言う。  社会人であれば、二週間後にいきなり旅行など難しいだろう。  それに冠婚葬祭は、唐突に起こる可能性だってある。運の悪かったそのひとには悪いが、感謝するしかない。 「そういうことならありがたくいただくかぁ」  事情もわかったところで由宇の気持ちは一気にあがったようだ。そりゃあもう、秋の終わりの雲に届くくらいにだ。 「どこどこ? 海外? 北海道?」 「おいおい、いきなりとか言ってきた割には期待値が高いな」  行き先を勢い込んで聞かれて、晴兎は苦笑する。 「金沢。温泉のついてる宿だよ。金沢はもうずいぶん寒いらしくて……」  そこで既に由宇は察してくれたのだろう。  晴兎がどういう気持ちで誘ってくれたのかということを。  晴兎はふっと目元を緩ませて笑った。  さっきのにやにやとした笑いではない。  愛しい、ともいえる、優しい笑みだった。 「雪の降る日もあるんだとかさ」

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