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1-03-2 手を繋ぎたい(2)
ショッピングモールのエントランスを抜けて、案内板の前まできた。
「めぐむ、ほら、見てみろよ。でかいフードコートがあるぞ」
「へぇ、ゲーセン、カラオケとかもあるんだ。あっ、すごいボーリングまで」
「大体揃っているな。あと、電気屋、スポーツ専門店、楽器屋。すげぇ」
なるほど。
ネットの口コミ通り、なんでも揃うっていうのは本当のようだ。
ファッション関連は、お馴染みファストファッションから一流ブランドまで一通りそろっている。
フードコートの他にレストラン街もあって、食べる所には不自由しなさそうだ。
「やばい。テンションが上がってきたよ、僕」
「ははは。そっか。俺もだよ。せっかくだから、めぐむ、何か買い物とかない?」
「買い物?」
僕は思い巡らせる。
「ああ、そうだ。僕、服が欲しい。一緒に見てよ」
「服ね……」
そうそう。
手を繋ぐ大作戦も大事だけど、こういう時は、雅樹の好みを知る絶好のチャンスなのだ。
「ねぇ、雅樹。今日の僕の格好ってどうかな?」
僕は、両手を小さく広げて雅樹に対面する。
雅樹の視線を感じる。
今日の服装は、プルオーバーのスウェットにくるぶし出しのジーンズ、そしてスニーカー。
至って特徴のないシンプルな服装。
「そうだな。いいと思うよ」
「本当にそう思う? 正直に言っていいよ」
雅樹は改めて僕を眺める。
じろじろ見られて、気恥ずかしい。
「そうだな。俺なら……いや、止めておこう」
「えっ? どうしてよ。言って!」
「いや、あまり俺の好みを押し付けてもな……」
「ううん。雅樹の好みも知りたいから!」
「そっか。じゃあ、めぐむに似合いそうな服を探しに行こうか?」
「うん! 行こう!」
僕の服を見ながら、ショッピングモールを回る。
「おっ! このブランド入っているんだ。俺のお気に入りなんだよ」
「へぇ……」
「こっちの店は、デザインに凝り過ぎちゃっているからさ……」
意外だけど雅樹はファッションに詳しい。
いろいろなブランドについて特徴やおすすめ度を僕に説明する。
僕は、感心しながら雅樹の説明に耳を傾ける。
「ここのブランド。めぐむに合うと思うんだ」
僕も見覚えがあるブランド名。
メンズもレディースも扱っているカジュアル系のブランド。
「これなんかどう?」
雅樹は、ボーダーのニットを僕に渡す。
体に合わせてみると、サイズは僕にピッタリ。
ただ、ボートネックなのと七分袖なのがどうもな……。
「雅樹、これだと女の子っぽく見えない?」
「そっか? 体にはフィットすると思うんだけど。めぐむは小柄だから、無理にメンズでダボっとした着こなしよりも、ユニセックスやレディースのボーイッシュ寄りを選んでもいいと思うぞ」
「なるほどね……」
そう言われてみれば、そうかも。
「ちょっと試着してみようかな」
「うん。してみなよ。店員さんに声をかけてくるよ」
試着室に入って着替えてみる。
鏡に映る自分。
うん。
まぁ、多少は女の子っぽくは見えるけど、どうせいつもと大して変わらない。
一方で、雅樹の言う通り体にフィットしているので、シルエットがすっきりとして見える。
ニットだから、夏にかけてしばらくの間着れそうだ。
試着室のカーテンをめくる。
「雅樹、どうかな?」
雅樹は、目を見開く。
「おー。似合っているよ。サイズもよさそうだね」
「うん。雅樹、ありがとう。こんなチョイスもあったんだね」
「ああ。メンズは小さいサイズが無いことが多いからな。こうすれば、選択の幅が広がるだろ?」
「そうだよね。よし、これにしよう!」
その時、店員さんが顔を覗かせる。
「いかがでしょうか? お客様」
「はい。いいかんじです」
僕は、くるっと回って見せる。
「ああ。お似合いですね。こちら新作なんですけど、合わせてみませんか?」
「えっ?」
僕は驚いて固まる。
店員さんが手にしていたのはスカート。
へっ?
すっ、スカート?
もしかして、店員さんは僕を女の子と勘違いしている?
どうして?
そうか……。
レディースの服を試着しているんだった。
それに、こういうお店だから、そもそも男二人で来るとは思われないのかも……。
うまくかわすには……。
うーん。
無理、だよね?
恥ずかしいけど、素直に自分は男だって言うしかない。
「あの、僕は男です」
と、言いかけた矢先、店員さんは、雅樹に話し掛ける。
「こちら、絶対お似合いだと思うんですが……彼氏さん、どうですか? 彼女さん、似合うと思いませんか?」
「へ? ああ、そうですね……いいですね」
(ちょっと、雅樹! スカートとか無理だよ!)
僕は、雅樹に小声で訴える。
(そっ、そうだけど。ついな。このスカートは今の流行りだし)
(そんなの知らないよ!)
(体に当ててみるだけならいいじゃん)
(もう!)
「じゃあ、ちょっと当ててみますね……」
僕はスカートを受け取り、自分の腰に当ててみる。
こうでいいのかな……。
鏡に映る自分。
はぁ。
確かに店員さんが言うように、似合っているような気がする。
女の子だったらね……。
「ああ、可愛い! とても、お似合いですよ」
店員さんは、手を合わせて嬉しそうだ。
雅樹は、へぇ驚いたな、っといった顔をしている。
「試着なさいますか?」
「えっ? いっ、いえ結構です……」
「そうですか? 彼女さん可愛いですよね? ねぇ、彼氏さん」
「ええ、そっ、そうですね」
雅樹は、まんざらでもない顔をして照れ笑いをしている。
まったく!
雅樹ったら、後でタダじゃ置かないんだから!
僕達は先ほどのトップスを購入して店を出てきた。
「もう! 雅樹は薄情なんだから! 危なくスカートを穿くことになるところだった!」
「まぁ、まぁ、悪かったよ。怒るなよ、めぐむ……ごめん!」
結局、あれから猛烈に試着を勧められた。
なんとか断ることには成功したけど……。
事もあろうか、雅樹は、
「穿くだけ穿けばいいじゃん?」とか、いつの間にか店員さんの側についていた。
なんてことだ。
僕が、女の子のような外見にコンプレックスを抱いているのを知っているはずなのに。
ん?
ちょっと待てよ。
これは使えるかも!?
このトップスを着てしまえば、先ほどのお店の店員さんみたいに、周りの人は僕を女の子と勘違いするかもしれない。
そうすれば、第2の問題の、『周りの目を気にせずに男同士で手をつなぐ』を考えなくていい。
男女で手を繋ぐのなら何の問題もない。
女の子に化けるのは、本意じゃないけど、これも雅樹の手を奪うため。
背に腹は代えられない。
「ねぇ、雅樹! ちょっと、この服に着替えてきていいかな?」
「ん? ああ、いいよ。ここで、待っているよ」
よし!
待っててね!
雅樹のあったかお手々ちゃん!
僕は、紙袋を抱えてトイレに駆け込んでいった。
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