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1-03-3 手を繋ぎたい(3)
早速着替えて、雅樹のもとに戻った。
「お待たせ!」
さてさて、これでどうかな?
うしし。
「ねぇ、雅樹。どうかな? 女の子っぽい? さっきの店員さんは間違えていたけどさ……」
「ん? そうだな」
雅樹は、しばらく僕の姿を見る。
そして、真剣な顔つきで僕に言った。
「めぐむ! 大丈夫だよ。お前は男の子だ。他の奴がどう思おうが関係ない! だから、心配しないでいいぞ!」
片目をつぶって、グッドサイン。
ぶっ!
いまは、励ましてもらいたいわけじゃないのに……。
はぁ。
でも、そうだよね。
女の子に化けて、手を繋ぐなんて……やっぱり、僕も気が進まないのは確か。
それに、この服。
見ようによっては女の子っぽいけど、中性的って言われればそう。
みんなが女の子って思うとは限らない。
「なんだ、めぐむ。そんなに落ち込むなよ! 男に見えるって! それに似合っているから!」
「うっ、うん。そうだね……」
確かに落ち込んではいる。
でも、手を繋げなかった事に落ち込んでいるんですが……。
ふぅ。
さて、気を取り直してっと……。
僕は気合を入れて、こぶしをギュッと握った。
僕達は、ショッピングモールの中央に位置する吹き抜け広場へやってきた。
大きなエントランスになっていて、ちょっとしたイベントができるスペースになっている。
入り口の方の風景を眺める。
大きなガラス張りの外は公園になっているようだ。
「めぐむ、ちょっと疲れたね」
「うん。広いもんね」
「そこのベンチに座ろう!」
「うん!」
ん?
まてよ。
チャンスキター!
ベンチに座るときに、手を重ねてしまえばいいんじゃない?
はぁ、はぁ。
偶然に手を触れてしまう作戦。
「あっ、ごめん、雅樹、手が触れちゃった!」
「ははは。いいよ、めぐむ。このまま繋いでいようぜ!」
「うん!」
「あぁ、めぐむの手って柔らかい」
「まっ、雅樹だって……あったかいし、大っきい」
「やばい、俺、興奮してきたよ! このまま、抱きついていいか?」
「うん、優しくしてね……」
よし!
いける!
これは、いけるよ!
「さてと……」
雅樹は、先にベンチに座った。
「さぁ、めぐむも座れよ!」
「うっ、うん」
わざとらしくならないように……。
ちょっと、距離を詰める感じで……。
視界の隅には、ベンチに付いた雅樹の手。
このまま座って、手を付けば、重なるはず。
よいしょっと。
あれ?
手が触れたのは冷たいベンチの材質。
雅樹の手はどこへいった?
「ああ、俺、あそこで、飲み物買ってくるよ。待ってて!」
そっ、そんなぁ……。
雅樹は、カフェに向かって走りだしていた。
何ていうこと……。
僕が呆然としていると、雅樹がカップを両手に持って戻ってきた。
「あれ? めぐむ。どうしたの? 疲れたか?」
「あっ、ううん。ちょっとね……」
「はい。コーヒー」
「ありがとう」
えっ!
差し出されたコーヒーカップを受けとったとき、雅樹の指先がちょんと触れた。
ビビビッと電気が走ったよう。
指先から雅樹を感じる。
これだけなのに心拍数が上がる。
「どうした? 熱かった? アイスコーヒーにすれば良かったかな」
「うっ、ううん。ありがとう……」
僕は一口すすり、テーブルにカップを置いた。
すっ、すごい。
ちょっと触っただけなのに。
これで、手をぎゅっと握ってしまったら……。
ああ、想像しただけで、興奮してくる。
ふと、吹き抜けの垂れ幕が目に入った。
「近日、ロードショーかぁ……」
「おお、そうか。映画館も入っているんだな。めぐむ、今度、映画を観にこような!」
「うん。そうしよう……」
って、これだ!
すっかり忘れていた。
映画館だったら、手を繋ぎたい放題。
手を繋ぐための王道中の王道。
これは行かないって選択肢はない。
「まっ、雅樹! 今から、映画を観にいこうよ!」
「えっ? 今からか? 面白いのやっているかなぁ……」
「とりあえず、行ってみようよう!」
映画館が入っている階へやってきた。
「あまり面白そうなのは無いな……」
雅樹は、上映プログラムを確認している。
「これなんかどう?」
僕は、ロングランのハリウッド映画を指差す。
「ああ、俺、それ見た。でも、めぐむが見たいならもう一度観てもいいよ」
「本当に? やった!」
何を隠そう、僕も封切り直後に観ている。
でも、いいの。
雅樹と一緒に観れるし、何より手を繋ぐチャンスなんだから。
劇場に入った。
「やっぱり、人少ないね。もう、だいぶ経つからな……」
「そうだよね」
僕は思わず笑みを漏らす。
ふふふ。
狙い通り。
僕は、ぐっとこぶしを固めた。
映画は、アメコミの実写映画で、何作かのシリーズもの。
もうすぐ、本編が始まる。
予告編を見ながら雅樹がつぶやいた。
「どうして、ハリウッド映画っておじさんが主人公なんだろうね」
「うんうん、確かに。しかも、どのおじさんもみんなすごい元気だよね。ふふふ」
「ははは、確かにな。ああ、いよいよ、始まりそうだ。結構楽しいから期待していいよ、めぐむ」
「うん。楽しみ」
僕は体をスクリーンの方へ向き直した。
ストーリーは、進んでいく。
僕は、さり気なく肘掛けに手を置く。
いつでも、握ってきていいように。
ああ、ドキドキする。
横目でチラッと雅樹を見る。
真面目に観ているようだ。
早く気付いて。
僕は、座り直したりして、さりげなくアピール。
まだ、気付いてくれないの?
うっ、うん。っと小さく咳払い。
雅樹の反応はない。
ふぅ。
焦らなくても、きっと僕の手に気付いてくれるはず。
こうやって楽しみに待っているのもいいかも。
ああ、なんて健気な僕……。
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