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1-03-4 手を繋ぎたい(4)
映画を観始めて結構経つ。
それにしても……。
もう、山場を過ぎるよ!
あーん、もう!
エンディングがきちゃうよ……。
とは、いうものの僕も途中でうっかり、アクションシーンに見入ってしまった。
だって、手に汗握っちゃうんだもん。
それにしても、雅樹ったら!
一体、何をもたもたしているの!
もう、我慢できない。
「雅樹、手を繋ごうよ」
そう雅樹に耳打ちしようとした。
その瞬間。
僕の肩に重い物が乗った。
えっ?
まっ、雅樹?
もしかして、キス!?
急に体が熱くなる。
胸がドキドキしてくる。
はぁ、はぁ。
ゴクリと固唾を飲む。
やばいよ……。
まだ、心の準備が……。
「ねぇ、雅樹。本気なの?」
無言の雅樹。
そっか。
雅樹も緊張しているんだね……。
僕もだよ。
でも、平気。
だから、雅樹。僕の唇を奪って!
僕は、思い切って雅樹に面と向かう。
グー、グー。
へっ?
まっ、まさか……。
寝てる!?
最高潮に膨らんだ僕の期待が、シューッとしぼむ。
はぁ、どうせそんな事だろうと思った……。
もしかしたら、序盤から寝ていたのかも。
だから、僕の手のアピールが通じなかった。
きっと、そう。
僕は、ヘタヘタとシートにもたれ、寄りかかる雅樹につぶやいた。
「いいよ、雅樹。2回目で飽きちゃっていたんだよね。付き合わせてごめんね。今は僕の肩でお休み……」
手を繋げなかったけど、まぁ、こんなシチュエーションも悪くないかな。
クスっ。
可愛い寝顔しちゃってさ……。
「ほんっとに申し訳無かった! この通り!」
平謝りする雅樹。
僕は怒ってやろうと思ったけど、「いいよ」と言葉を返す。
時計を見ると、もう帰る時間。
はぁ、残念だったなぁ……。
僕達は、エントランスを出ると国道沿いのバス停に向かった。
雅樹の家へは、駅に戻るよりバスに乗った方が近いのだ。
「本当に駅まで送らないでもいいか? 暗くなってきたし……心配だなぁ」
「何言っているの! 僕は男の子だよ。ふふふ。気にしないで」
「そっか。そうだよな。じゃあ、お言葉に甘えて」
バス停まで並んで歩く。
辺りはもう暗くなっている。
人通りは無く、たまに車のライトが目に入る。
雅樹の手を見る。
あーあ。
今度のデートでは、必ず握るからね!
バス停に着くと、雅樹は突然言った。
「なぁ、めぐむ。手を繋がないか?」
「えっ?」
うそ!
どうして、雅樹から?
まっ、まさか……。
今日のデートで僕の口から勝手に言葉が出てた?
「ねぇ、雅樹。もしかして、その、僕、何か言っていた?」
「えっ? 何を?」
「そっ、その、手を繋ぎたいって……」
「いや? 手を繋ぎたいのは俺の気持ちだけど……」
「ほっ、本当?」
「ああ。でも、めぐむは、今日はずっと手をぎゅっと握っていたからさ。手を繋ぎたく無いのかと……」
「えっ! そんな事……はっ」
思い当たる節がある。
雅樹の手を狙っていた時、無意識に手に力が入ってたんだ。
だから、手がグーになっていた。
はぁ、なんて事だ。
「もう! 僕だってずっと手を繋ぎたかったんだからね!」
「そっか」
雅樹は、にっこりと笑うと僕の手を取る。
念願の雅樹のあったかい手。
やった!
僕はギュッと握り返す。
ああ、幸せ……。
僕自身が雅樹に包まれているみたいだ。
今日の上手くいかずがっくりした気持ちが、嘘みたいにスッと抜けていく。
もう、離したくない……。
そう、思った瞬間。
えっ?
雅樹に手をグイッと引き寄せられた。
ドン。
雅樹の胸に体が当たる。
「どっ、どうしたの?」
雅樹を見上げる。
なっ……何が起こったの?
瞬間。
僕の唇が雅樹の唇で塞がれた。
時が止まる。
頭の中が真っ白。
徐々に状況が掴めてくる。
ああ……。
雅樹にキスされちゃったんだ。
雅樹は、唇をゆっくりと離して言った。
「手を繋ぐだけじゃない。キスもしたかったんだ」
はにかむ笑顔。
トクン……。
心臓の鼓動が早くなる。
体の中で、ふつふつと何かが沸き立つ。
熱い。
熱いよ。
なんだろう。
きっと、体中が喜んでいるんだ。
「雅樹、嬉しい……」
「めぐむ、どうして泣くんだ?」
「えっ? 僕、泣いている?」
「泣いているよ。ほら!」
雅樹は、優しく僕の涙を拭ってくれた。
「ありがとう。雅樹……」
その時、雅樹のバスがやってくるのが見えた。
「じゃあ、めぐむ。またな!」
「うん。雅樹、またね!」
僕は、バスに乗り込む雅樹を手を振って見送った。
バスが見えなくなっても、しばらくぼうっと立っていた。
本当にキスしたんだよね?
嘘じゃ無いよね?
自分の唇をそっと触る。
うん。
ちゃんと僕の唇が覚えている。
雅樹の唇の感触。
やった!
手を握れただけじゃない。
キスもしたんだ!
僕は、火照った体をもて遊びながら、喜びを噛みしめていた。
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